愛歌

□幸多かれと夢に祈ぐ
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 浪々とあてもなく徳を集めるその旅路、野宿は既に慣れたものだが、やはり町や都といった場所の宿場に泊まるほうが何十倍も気が休まるのは事実だった。もちろん、普段の野宿が悪いと言っているわけではない。ただ、地面のそこらへんで寝るというのが、時折寝違えると体中が痛むので、あまり好かないだけで。

「………お師匠様。どうか、した?」

「あ、いえ。少し、感傷に耽ってしまいました」

「そう」

 ふわり、と花が綻ぶように安堵したような笑みを浮かべた玉龍の表情に、玄奘は少々時間を忘れる。再度の彼の問いかけに、またしても気がついたわけであるのだが。

「あ、それとお師匠様。この宿、どうやら部屋があんまり空いていないらしくて、出来れば相部屋にしてほしいって言われたんだけど」

「え」

 相部屋。―――密室で、ふたりきり。

 なぜかその言葉を聞いた時、羞恥で顔が赤くなる感覚を覚えた。一体自分はなんて不埒なことを考えているのだ。三蔵法師の名を賜った癖に、なんて不道徳な。

「―――お師匠様?」

「は、はい。……そうですね。この時間帯からまた改めて宿を探すのは骨が折れそうです。…それで構いませんよ」

「わかった」

 そうして彼と部屋に入って、すぐさま旅の疲れでよろめいた玄奘を、玉龍は慌てて支える。
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