愛歌
□抱き締めた花の香で鎮めて
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「まさとおにーちゃん!」
「あそんで、あそんでっ」
「おー、いいぞ。だが、少しだけな」
鷹揚に構えて自分目掛けて突進してくる子ども達を受け止めて、雅遠はにかりと笑った。
無邪気に雅遠の足元で遊びまわる子等に、雅遠はただ笑う。
「今日は何がしたい?」
「えっとね、鬼ごっこ!」
「おぉ、久しぶりだな。…よし、やるか! 保名。お前もやれ」
「え…えぇ?! 私もですか?!」
「それじゃあ、俺が鬼をやろう。みんな、逃げ回れよ!」
「ちょっと、雅遠様、私は了解してませんって―――…あれ?」
ふと気がつけば、雅遠の傍らに、まだ逃げようとしない一人の少年が蹲っていた。不思議に思って、保名は声をかける。
「…逃げないのか?」
「………ぅうっ…っく」
「…雅遠様」
「………お前、どうしたんだ?」
雅遠が顔を覗き込んだ途端、少年は堪えていた涙を一気にあふれさせ、泣き出した。
なんとか宥めすかし、少年に経緯を話してもらう。
―――雅遠が来る、少し前…
少年は、御遣いを頼まれ、市の中を歩き回っていたらしい。
頼まれたものを買い終わり、帰ろうとしたところ…一人の少年とぶつかった。
謝ろうと顔をあげ、少年は途端怯えつつも謝罪した。―――餓鬼大将が、目の前で不適に笑っていたという。
金は既になく、手にはお使いで頼まれたものの袋がおさまっていた。その中のひとつを掻い摘み、自身より体格の大きい餓鬼大将は「ぶつかったお詫びにコレ、貰う」と言い残して去ろうとした。
だが、こちらとて生活ぎりぎりの金で必要なものを買ったのだ。一つかけただけで生活が不十分なことになりかねない。
だから、勇気を奮い立たせ、餓鬼大将にぶつかっていき「返してっ」と叫んだという。
途端、餓鬼大将は怒り狂い、しがみつく少年を蹴り飛ばし、持っていた「詫びの品」を投げ捨て、少年に言い放った。
「……のろいのやしきにいけって…こっ、こわくて…」
「呪いの邸?」
「ひとにわざわいいをふりかける…おんなのおにがすむ………きぞくの…おやしき…」
途端、雅遠の額に青筋が浮かんだ。あっと保名が声をあげ、慌てて押さえる。
「……その餓鬼大将とやら、どこのどいつだったか教えてくれるか?」
「……とうふやの……いさむ…」
豆腐屋の、『イサム』。
しっかりと頭にその名を刻みつけ、雅遠はにかりと笑った。
「大丈夫だ、俺がなんとかするから行かなくていい。………ほら、鬼ごっこ、やろう」
微笑まれ、少年は涙が滲む顔で、情けなく笑った。