院帝の書

□Kiss Me New
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明王の課題を終え、花梨を紫姫の館に送り届けた二人は、暫くの間だ、二人で歩いていくことにした。
町中では、貴族ではない一般人の男女が暮れて行く夕闇に紛れて口づけをしたりしていた。
「あいつら、良くこんな往来であんな事できんな、俺には理解できん」
最初に口を開いたのは勝真だった。
確かに、自分と頼忠は恋人同士だが、こんな道端では特に男同士と言うことも含めてそんなことはしない。
「お前は貴族で、通い婚が当たり前で屋敷のモノに気付かれぬようにするものかもしれんが、逢瀬と言うのは本来、仕事などが一段落した時に若い男女が逢うものだと私は思う」
相変わらずの難しそうな単語を並べた解説に、勝真は項を掻いた。
「ま、そうだろうな」
と立ち止まってみる。
頼忠もそれに気がつき、少し離れた所で立ち止まり、振り返った。
空は既に月が出ており、先ほど居た民も姿を消していた。
今思えばココは既に貴族街に着いていたのだった。
「俺達もココでしてみるか?」
隣を我が君の元へと牛車がゆっくりと過ぎ去っていく。
また、反対側から馬も走ってきた。
「もう、夜這いの時間だしよ」
貴族街の真ん中であるココですることに、頼忠は少しながら抵抗を持った。
そんなことを考えているウチに、勝真の気が変わったのだろうか、彼はため息をついた。
「冗談だ、別にしなくても良い…言ってみただけだからな」
そう言って勝真は歩き出し、立ち止まる頼忠の横をすり抜ける。
すると、急に腕を掴まれた。
「嫌な訳ではない…」
頼忠はそう言って、勝真を抱き寄せ、口づける。
柔らかい唇が勝真の唇に当たる。
チュッと言う音を立てて、唇は離れた。
「勝真の唇はいつも柔らかいのだな、とても愛おしく感じる」
そう言って、親指で彼の唇を触る。
「ばっ、なに恥ずかしいこと言ってんだよ!」
そんな頼忠の言葉が気に入らなかったのか、勝真は腕を振り、頼忠の腕の中から離れた。
「しかも、急にしてきやがるし…!」
言い出しっぺは自分だと棚に上げて睨みつけると、頼忠は柔らかく笑っていた。
「すまないな、お前の背中がすぐにして欲しかったと語っている様に見えたからな…」
確かに男は背中で語るとはいえ、そんな事を真面目に言ってくるヤツは初めてでどう反応したらいいのか戸惑ったが。
「馬鹿、こう言う時だけ鋭くても困んだよ」
と少しだけ困った様に微笑んだ。
「じゃぁ、次回から別れる間際に口づけな、それに何となく、あの男女が往来で口づけしてたのが理解出来た気がするぜ…」
勝真はそう言うと、じゃぁなと手を振って、自分の屋敷に消えていった。
すると、頼忠は困った様に
「毎回口づけをしていたら、それだけでは足りなくなってしまうだろう…」
と小さくため息をついたのだった。

The end
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