niji

□希求
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水面は凪ぎ、月光が輝き、ぼんやりと浮かび上がる
私の面(オモテ)。
感情の起伏のない能のような面。

記憶が戻れば少しは変わるのだろうか?

瞼をゆっくりと降ろす。

静かな暗闇に浮かび上がるのは私ではなく、そなただった。

出会った時の、
再度見(マミ)えた時の、
少し驚いた表情。
迷い悩み
憂いを含んだ泣き顔が。

はっきりと浮かぶ。

瞼をゆっくりと上げる。

「………っ」

見たことのない面だった。
口の両端がすっと上げられ、光を遮断した瞳には月が映る。

「……これは…?」

私だった。

能のような面が、
今は確かに人だった。

何故だろうか。

解らなかった。

風が川の上を走り抜ける。水面は全ての色を交ぜて境界線を失った。

暫くすると水面は元の形に収まり、私は能に戻った。
幻の様だった。

それともあれは月光の輝きに、水面の揺らぎに、そう見えただけなのだろうか?


そういえば


私は

そなたの

笑った顔を

知らない。



今度出会った時には

見せてくれるのだろうか?




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