niji

□『3月6日』の後に―――
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「どの位作るの?」
「200本。」
「始めたのいつ?」
「2週間前。」
「・・・“2日前”の間違いじゃない?」

そのまま零一は黙り込んだ。秋が言うのも仕方がない。2週間前に始め、今出来ているのが30〜40本では、1日平均して2本〜3本である。どう考えても、納品日まで200本、このままでは終わらない。

「何でこんなに少ないの?」

積んである造花を指差し、零一に不思議そうに秋は問い掛けた。秋の表情は眉間に少し皺を寄せ、彼の回転の速すぎる頭でも全く理解できないらしい事を物語っている。

本来の―悪魔の―仕事とは全く関係は無く、零一にとってこの仕事は本意ではない事は解る。しかしだからといって、律儀や頑固、などの言葉がすっぽりと当てはまってしまうこの悪魔がそんな事で、与えられた仕事を放り出すと思う事は難しい。
秋は視線を向け、目だけで再度零一に問い掛ける。

零一は黙ったままだ。

仕方ない、という様に小さく息を吐くと、秋は飲み終わった空のグラスを自分の横に置き、同じ姿勢に疲れたのか、膝を立て、俗にいう体育座りをして静かに前を見つめた。


静寂が、小さな部屋に訪れる。

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