niji

□散りゆく花は美しく
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二人の眼の前に在るものは、最盛期が過ぎた冬の桜と、厳しい寒さのおかげで澄みきっている満天の星空と、十六夜の月。
どれもが美しく、どれもが目に留まる。
これは難しい、と悩み出す前に経正は降参の意思を伝えた。

「どれもが美しすぎて、どれが重衡殿の目的のモノか検討もつきません。一体どれなのですか?もしかして、全部でしょうか?」

重衡は「えぇ・・・」と肯定とも溜息ともとれる言葉を発した。
そして一間おいてから、答えた。

「正解・・と申し上げたいのですが・・・、経正殿。実は私は、とても酷い謎かけをしました。」
「・・どういう事でしょうか?」

重衡の言っている意味が解らず、経正は問う。

「私は、今貴方が言ったどれもを見ていて、そして、決して見ていませんでした。」

ザワザワと枯れた木々の声が聞こえ、冷たい風が二人の周りを通り過ぎた。

「私はこの場で起きた幻を見ているのです。」

風が通り過ぎた夜はもの静かで、その静寂に吸い込まれそうな声で、重衡は言う。
幻を見てる、という重衡も、まるで覚束無い夢の様で、いつもの存在感が感じられない。
危い感じがして、経正は彼の名を呼ぼうとしたが、「経正殿。」と、逆に呼ばれてしまい、出かけた声は夜に消えた。

「惟盛殿からお聞きでしょうか?」
「・・何をですか?」

いきなり、この場に関係がなさそうな重衡の甥の名前が出てきて、経正は反応が遅れる。

「十六夜の月の、晩の事です。」
「・・・・・あぁ、あの、不思議な姫君との逢瀬の話ですか?」

考えるとすぐに思いつく。一昨日、惟盛から話を聞いたばかりだからだ。

「えぇ・・・、不思議な姫君でした。」

うっとりと、まるで恋をしている乙女の様に、重衡から言葉が紡ぎ出される。

「彼女は、伝説の天女の様で、そしてかぐや姫の様でもありました。」

重衡は周りを見渡した。彼の言う彼女との逢瀬の時を思い
出しているようだ。
瞳は月を見て、否、その月よりも遠い場所を見ている。その瞳はやはり、覚束無い。
成る程、彼が言っていたことはこういう事だったのか。と、経正は悟った。
そして、彼の言葉に耳を傾ける。

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