niji

□現世の逢瀬で
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ふわり、と笑い、敦盛は愛しさと感謝の気持ちでいっぱいの心を落ち着かせようと、また手を伸ばし、髪に触れた。

不意に、敦盛は自分の手に一筋の光があるのに気づいた。
光を目で追うと、カーテンの隙間が目に留まった。
どうもちゃんと閉まってなかったらしい。
敦盛はベッドからそっと抜け出し、光に近づいた。
音を立てぬようにカーテンに触れ、閉めようとした。が、その手は止まった。



――――月・・・だったのか。



光の元はてっきり外の街灯や、建物から発せられた物だと思っていた。


こちらの世界に来てから敦盛は色々な不思議な事を学んだ。

ビルと言われる建物、学校と言われる機関、デパートと言われる店、人々の髪型や服装、言葉使い、関係、色々な物を見聞きし、驚いた。神子があちらの世界でそうだった様に―――。
光というのも、炎や太陽、月、そういう自然的なものでしか知らなかった。

電球や、蛍光灯。
人工で光が起こせるなどと思わなかった。

初めて見た時は、人という生き物は凄いのだな、と感心をした。しかし、新しい世界で何度となく夜と朝を繰り返して気づいた事があった。

たとえ眼の前を明るく出来ても、心は動かなかったのだ。
月や太陽の様に心は暖かくならなかった。


カラカラカラ―――・・


まるで吸い込まれるように敦盛は窓を開け、ベランダに出た。

月は明るい。

ここは確か10階建てのマンションの8階。
下を見れば人はあんなに小さく見えるのに、月は幾ら上に上っても大きくならない。近くならない。



―――あぁ・・・同じだ。



平家の牢屋から見えた月と。
悪しき者になる前に見た月と。
兄の琵琶と共に笛を合奏した時の月と。


何一つ変わらない、心をじん、と暖める月。

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