niji
□現世の逢瀬で
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不意に、敦盛は目を覚ました。
酷く心地が悪い。
手に、足に、背中に、全身から汗が滲みでていた。
何か怖い夢でも見たのだろうか。
思い出そうとするが、思い出せなかった。
ただ、あまりにも恐ろしかったという事だけを、この体が教えてくれている。
「・・・・ん・・・」
小さな呻き声に敦盛ははっと我に帰り、横を向いた。
「・・・・・・」
そこには、少し眉間に皺を寄せた、望美の顔があった。何故皺を寄せているのかと思っていると、手の下にさらり、とした物があるのに気づく。ベッドの感触ではない。
長く艶のある望美の髪だった。
「ぁっ・・・!」
慌てて手を引っ込める。
すると、難しい顔をしていた顔はふっと安心した様に微笑み、また小さな寝起きをたて始めた。
先程飛び起きた時に髪を引っ張ってしまったらしい。
「・・・すまない。」
気持ち良さそうに眠る恋人が起きないように、小さく謝罪を言葉にした。そして、最近ようやく大人の男らしくなってきた自分の手で、感触の良い髪を一回撫でた。
あの、源平の世で見せていた猛々しく、凛々しく、そして美しい顔は、よく見れば随分と幼く可愛らしく見える。
考えてみれば、自分とさして変わらない年齢だ。
その彼女が自分を、怨霊を、源平を、八葉を、龍神を、否、あの世界の全てのモノを救う者だった。神子とし、あの地に来てから、あまりにも彼女のいた世界とは違う世界で、幾度となく傷つき、哀しみ、悔いて――――、それはどれほどの苦難だったろうか。
それでも笑う事を止めず、人、人ならぬ者への慈しみを忘れず、それが、どれほどの者へ勇気と優しさを与えただろうか。
そして―――――自分も。
怨霊となり、偽の人生を歩んでいた自分を『必要』と言い、『仲間』と言い、何よりも『愛しい』と言い、何度救われたことか。
愛していても、自分は怨霊だ、と自分自身の本心に背き、怨霊としての開放を望み、彼女に自分を浄化してくれと、残酷な言葉をかけてしまったちっぽけな自分を『愛しい』と、『愛してる』と何度となくかけてくれる。
それがどれほど強い力を持っているのか、神子、貴女は理解しているか?
きっと理解していないだろう。
理解していないからこそ、貴女は本当の心から、本当の言葉だけを伝える事が出来る。