niji
□音・ファンタジア〜旅の途中で〜
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頭の中に心臓があるようだ。
どくどくと血管の中を暖かい血液が流れる度に、頭は割れるような痛みを発する。喉も唾を飲み込むだけで、できたばかりの擦り傷みたいに染みる。
身体の全てが鉛を付けたように沈み、指の先さえ動かすのが辛い。
風邪だ。
しかも高熱を伴っている。
ダイキリは忌々しそうに部屋の窓から見える、陽が昇り始めの薄い青空を見つめた。
(―――いつ振りだよ、風邪なんて。)
朦朧とする頭で、以前ひいた時を思い出そうとしたが、うまく回らない。そもそもそれ自体がかなり昔だったこともあり、すぐには記憶の欠片を掴むことはできず、考えるのをやめた。視界がぐるぐると回る。
はぁ、と熱い息を吐いた。
しかし、口内に空気が入ってきたことで、噎せるようにゲホゲホと乾いた咳を何度もしてしまった。生理的な涙がうっすらと目元を覆う。
喉が痛い。水が欲しい。
だが、身体を起こすことはできない。
(―――あぁ、なんつー情けない姿だ。)
ダイキリは観念したように枕に頭を沈め、天井を仰ぎ見る。
とりあえず、大人しくしていよう。無理に動いてしまえば、逆に身体に障る。
瞼をゆっくりと閉じて、せめて荒い息を落ち着かせようと、大きくゆっくりと胸を上下させる。深呼吸が効いたのか、割れるような頭痛も少しだけ収まる。
不意に、瞼の奥に残像が過ぎった。その正体をダイキリはすぐさま理解する。
こうやって弱った時には必ず現れる記憶だ。
孤独な自分が頼れるものは、心の奥に閉まっている、暖かな記憶しかないから。
「…オ…ゃん…」
弱弱しく、声とも言い難い吐息で、その正体にダイキリは縋る。そのままうつらうつらと意識は薄れていった。