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□キャンバス
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雨が降っている。
寝室の大きな窓から見える空は、薄暗く、どす暗く、ちょうど一年前に思い描いたものにそっくりだ。
俺が彼と出会った路上で、出会った日と同じ日に、彼を捨てて遠ざかっていった日から、2LDKのマンションは、この空のように重い色に変わった。
夏になっても、肌がそら寒さを感じる。
アレから、何度も彼の事を思い返した。考え、思い続けた。いや、思い続けている。
惨めだ。馬鹿だ。阿呆だ。――――情けない。
手放したくなかったなら、手放すべきではなかった。
馬鹿な理性や、プライド。本当の感情を殺す、そんなものに従うべきではない。後悔したくないのなら、感情を剥き出しにして、縋れば良かった。
――――――『捨てないでくれ。』と。
『捨てる』などと言って、本当に捨てられたのは、自分自身だったのだ。
あの路上で別れてから、すぐに後悔して、次の日、そこに行った。しかし、彼は居なかった。
もしかしたら、何度振り返っても身動きしなかった彼が、そのまま同じ様に居るのではないのか、と。だが、淡い期待は打ち砕かれた。
居なかった。
彼は居なかった。
残り香も、彼が居たという情景も、全てが消えていた。