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□夏の日々
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あ〜、暑い。暑い。暑い。暑い。

夏は嫌いだ。

運動しなくても、ただじっとしてるだけで汗は滲み出てくるし、湿気で機嫌は悪くなるし、喉は乾くし、陽射しは痛いし、やる気でないし。
せめて夜にでもなんなけりゃ、外に出て遊ぶなんて出来やしねぇ。
なのに、なんで俺は今、外にいるかな。

季節は残暑厳しい八月下旬。
ヒートなんたら、とか、なんとかかんとか、とか言う現象のせいで田舎より気温が上っている都会のど真ん中。の、公園の芝生の上。
何が悲しくて、男二人で寝転がっているんだか。
風は確かに気持ちいいが、いかんせん、生ぬるい。それにそんなものじゃ、灼熱の太陽光の威力は弱まらず、直接肌を焼く。

「なぁ、暑いんですけど。」
「夏だからね。」

んなこた解ってんだよ。
とは、言わず。
いや、言っても良かったんだけれど。暑くて暑くて。
これ以上体内の熱を上げたくはない。
仕方ないから、横にいる男をじっと睨んだ。

「?」

その行動の意味が理解できなかったようで、俺よりは数センチ上に位置するはずの頭を傾げている。
女じゃないんだから、全然可愛くない。・・・・が。
そこにトキメキらしきものを感じてしまうあたり、俺の脳は既に熱さで醗酵してんじゃないかと疑ってしまう。

はぁ、と自分に溜息を一つ。

しかし、それをどうも違う意味で取ったらしい彼は、ずいっとそのまま口づけができそうなほど顔を近づけてきた。その顔は不安を・・・いや、不満をありありと刻みこんでいる。

「・・・なに?」
「もっと笑ってよ。」

無理です。暑いもの。

「今日は何の日だか、解ってないんだろ?」

意外な言葉に、俺は瞳を丸くする。口をパカ、と開けて、情けない表情だろう。
はぁ、と、今度は彼が溜息を一つ。

「なんだよ・・。」

そして、今度は俺が不満な表情を刻み込んだ。

「今日は、誕生日だろ。」
「誰の?」
「・・・・俺の。」
「え」

しばしの沈黙。
お互いに顔を見合わせる。いや、俺はそれしか出来ずに固まっているだけで、彼は半目で俺を睨む。

「・・・・おめでとう。」

何を言って良いのか解らず、誕生日なのだから祝わなければと、言葉にしてみた。すると、彼はガキみたいに嬉しそうに微笑み、満足そうに再び芝生に倒れこんだ。
先に謝罪をしたほうが良かったかも。なんて、思いもしたけれど、まぁ、喜んでもらえたみたいだから、良いか。と納得しておく。

「・・・・なんで、言わなかったんだ。知らなかったぞ、俺。」
「聞かなかったから、知ってるんだと思ってた。」

そうか、そういうのは聞くべきなのか、と一人頷く。

「でもさ、お前だって聞かないけど、お前は俺の誕生日しってんの?」
「12月でしょ?」

即答。空を見ていた顔が、再び俺の方へ向く。

「ねぇ、プレゼント欲しいんだけど。」
「・・・何?」

あまりに楽しそうに微笑むので、訝しげに問い掛ける。

「俺の名前、言って。」
「・・・は?それがプレゼント?」
「うん」

そんなもので良いのかと、少し躊躇ったが、俺は言われたとおりに言ってやった。いつもよりは少しだけ、柔らかく。

「じゃあ、次は、誕生日知ってたからそのご褒美、頂戴。」
「え」
「愛してる、って言って。」
「ふざけんな、この野郎。」

眉間におもいきり皺を寄せて、間髪入れずに否定してやった。

「えー。この機会にさ、素直になってさ、正式に付き合おうよ!」
「さっきのが俺の素直な気持ちだし、第一男同士で付き合うって意味が解らん。」
「Hはするのに?」
「っっ!オマエッ公衆の面前でっっ!!」

あ〜、ヤバイ。熱が上ってきた。
暑い、暑い、暑い。
ちょっと怒鳴っただけなのに、ほら、また汗が流れた。
だから、夏は嫌いなんだ。





でも。





まぁ、





少しくらいは好きになってやっても良いかな。



なんて。


*END*

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