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□キャンバス
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瞳は怯えていなかった。
むしろただあどけなく、純心に見えた。きっと何も思わず、考えず、空を見上げていたに違いない。
けれど――――
きつく、きつく、刺さる。
その瞳が俺を苦しめる。
くるり、と彼から背を向け歩き出した。
雨は降っていない。
こういう時は雨でも降っていれば雰囲気やら何やら出てくるのかもしれない。けれど、そういう時期だというのに、生憎、天気が俺の思うように動く訳がなく、彼と同じ様に見上げれば、目は反射的に瞼を降ろそうとする。
ちらり、と横目で後ろを見る。
さっきと全く変わらない彼が立っている。
あぁ、雨の日にすれば良かった。
そうだ、そうすればきっと、シトシトと降る水の玉に、どす暗く重い灰色の世界が、きっときっと、彼を苦しめる。
きつく、きつく、突き刺さる。
雨が頬に触れ、腕に触れ、体全体に触れ、しっとりと、じんわりと、心に染み渡っていく。鈍い痛みを伴いながら。
俺と同じ様な痛みを伴いながら。