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□熱帯魚
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熱帯魚になりたい。

そう、彼が言った。

意味が解らずに聞き返すと、「わからないの?」と少しきつめの返答をされた。

仕方ないじゃないか。
貴方と俺は違う人間なんだから。
どんなに一緒に居ても、同じモノを見ていても、感情が同じになるわけじゃない。

彼はまた言う。


熱帯魚になりたい。


仕方なしに彼の方を向くと、まるで瞳が心此処にあらず、というのを物語っているように揺れていた。

じっと熱帯魚の居る水槽を見つめている。
ちょっとその瞳が美しくてずっと見ていたい感情に駆られたが、不意にアラームがなり、現実に戻される。

熱帯魚の餌の時間だ。

俺はソファから立ち上がり、水槽の横に置いてある餌を少しずつ入れる。
すると、熱帯魚達はすぐに水面に集まってきて口をパクパクと開けては、餌を必死になって食べている。
それが可笑しいような愛しいような感じで、俺は少し笑んでいたのかもしれない。



熱帯魚になりたい。


彼はまた呟いた。


どうしてなりたいのです?


俺は聞いた。


だって、熱帯魚ならずっとお前に餌をやってもらえるし、ずっと一緒に居てくれるだろ?


やっと彼の言いたい事がわかった。



――馬鹿ですね。貴方が熱帯魚になったら愛の言葉は言えても、聞けないじゃないですか。それに・・・こうやって貴方から口づけされる事も、ね。―――



そう言って、俺が彼の愛らしい唇に、子犬みたいに鼻を寄せると、彼は真っ赤になって口付けて言った。



じゃぁ、熱帯魚になりたくない。



俺は可愛いなぁ、と微笑んだ。



END 

 

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