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□十六夜ファーストラブ
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空が重く広がる。
降り出した雨は
やがて激しく地を叩いた。
「お疲れー侑士」
「おー・・・・ほんまに疲れたわ・・・・」
部室に戻ると、岳人がバスタオルを用意して待っていた。強くなる一方の雨足に、既に帰りぎわの跡部からお許しを頂いたが、日吉の方は最後までやると言い切ったららしくまだ走っている。
「日吉の奴・・・・この雨の中まだ走ってんの?」
「俺はごめんやけどな」
「そりゃそうだ。・・・なぁ侑士・・・・」
「何や」
着替える背中に、ソファからの岳人の視線を感じながら、忍足は振り向かない。
「・・・・怒ってんの?」
「何が?」
「・・・・・こっちむいてよ」

「・・・今着替えとる」
「着替えながらでいい・・・・こっちむいてよ」
「・・・・・」
沈黙。
空調の音と、雨音が微かに聞こえるだけ。
忍足はため息をついて、手を止めた。
「・・・・何や」
上半身は裸のまま彼は向き直った。
濡れた髪が、漆黒の艶を際立たせる。
「・・・日吉に好きだっていわれた」
「そか」
「キス・・・・された」
「知っとる」
「・・・・・・侑士」
岳人の目がゆらりと揺れる。
「日吉に・・・何言った?」
「・・・・何も、てゆーたやん」
「嘘!分かんねぇと思ってんのかよ!侑士の事は俺が一番」
「黙っとれ!!」
「!!」
珍しい忍足の怒鳴り声は、岳人の体を硬直させるには十分だった
「ご、めん・・・・」
驚いた岳人は、消え入りそうな声で呟いた。いつもは言い返してやりそうな事も、今は言葉が出てこない。
「・・・・岳人。」
静かな、低い声が呼ぶ。
それだけでもう色んな感情が渦巻いて泣いてしまいそうだった。
「こっちき」
忍足が手で合図する。
「・・・・侑士が来ればいいだろ」
精一杯の強がりを言う岳人に、彼は口の端を上げて笑みを浮かべた。
「ナマイキやないか・・・・」
ゆっくりと、歩み寄る。
「お前は無防備過ぎるんや・・・・」
長い指がサラサラと髪を撫でる。
そのまま下へ滑らせて、柔らかい頬を撫でた。
「ボケッとしてたら襲われるんやで?狼さんにな・・・・」
「侑士・・・?・・・何・・・・」
「意外にな、・・・・近くにおるもんなんやで・・・・?狼さん・・・・」
岳人が後に続けようとした言葉をさえぎる様に口付けて。
「・・・、ゆうし・・・ちょっ・・・何するつもり・・・・ン!」
舌を深く絡め取られながら倒された体は、跡部が大層気に入っているソファへ横たわった。
「・・・は、ぁ・・・ッ・・・侑士!」
「なんや」
「何やじゃな・・・・!うわ、わ・・・」
外された制服のボタン。
隙間から長い指が入ってくる。
「や、・・・・ゆう、し!バカ!跡部に殺されるぞ!!」
「あぁ?黙っとったらバレへんわ」
「あ!や・・、やだ・・・!ぁ・・・・ン・・・」
胸を指で辿りながらゆったりとしたキスをする。

優しく、それでいて嵐の様に激しい口付けを、何度も、何度も。
「おとなしなったな?嫌やゆーたクセに」
「・・・・侑士にキスして貰うのは好きだからいい」
「・・・・はは・・・これやからかなわんのや・・・・」

ドロドロした黒い感情は、
岳人の些細な一言によってふわふわとした綿菓子にかわる。
忍足は確かに嫉妬しているのだ。
真っすぐ、純粋に岳人へ思いを寄せているのであろう日吉に。
だから発破をかけてやった。
岳人は自分のものだと、
今更ながら認識させてやる為に。

浅はかな独占欲。
そんな屈折した忍足の感情裏腹に、
岳人ときたら。


「あのさ。」
「・・・何や」
「俺、侑士だけだよ」
「分かっとるわ」
「ヘンなの」
額へのキスに、擽ったそうに笑う岳人は、
シャツを脱がしにかかる彼を見上げて笑った。
「いつもは俺が妬いて騒ぐのに。侑士のそんな姿、始めて見たかも」
「・・・・妬いたんとちゃう。日吉がお前抱き締めてごっつ幸せそうやったからムカついただけや」
「いや、それって抱き締めたとかじゃないし。肩貸してくれた・・・てゆーか嫉妬じゃん」
「そやからお前は無防備なんやてゆーとるんや。そのまま部室に連れ込まれて押し倒されたらどないするつもりやねん」
「・・・そんな事すんの・・・侑士だけだよ・・・」
「へぇ。ほな期待に答えなあかんな」
忍足の口元に、意地悪な笑みが浮かぶ。
「や・・・ちょっと!ここでは無理だってば!キスするのはいいけどその先はダメ!」
「嫌や。もう止まらん」
「やー!やー!!」
「しー。」
「ヤ・・・・んう・・・っ・・・・」
小さな唇に押しあてた人差し指と入れ代わりに、深くて官能的な口付け。微かな雨の音に交じって、舌が絡み合う淫らな音が部屋に響いた。
「ぁ・・・・んン・・・、は、ふ・・・・」
執拗な舌に口内を撫でられるだけで、岳人の体は忍足の手に落ちる。
骨抜きにするには十分なキス。
「・・・・ゆ、しぃ・・・」
「キスだけやったらこれでしまいやけど・・・どないする?」
「・・・!!・・・」
氷帝一のクセモノは、やめる気なんて毛頭無いくせにわざと問い掛ける事で岳人を煽る。
「なぁ・・・どうする・・・・?」
「・・・・やだ・・・・」
「やめる?」
「やめるなよ・・・!分かってるくせに!」
「・・・よくできました。」
羞恥心で閉じられた目蓋にキスを落として、長い指が再び愛撫を開始する。


愛し合う空間。
「彼」がこの光景を目のあたりにするまで。
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