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□なつのおわり
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パチパチ、と軽く音を立てる。
火薬と、鼻にツンと来る特有の匂い。
夏の終わりに、と始めた花火。
残っていた線香花火に火を点けて、じっと見つめた。
ふと吹いてくる風は少し冷たくて。
「、くしゅっ!」
ぽとり、落ちる光の玉。
それはやがて、土の上で消えた。
「あぁ〜…あぁあ…」
暗くなって、物悲しくて。
虫の声も聞こえなくなった。
「ちぇ…つまんないの…」
一人で花火なんて、つまらなくてしょうがない。
バケツの中には残骸、どれも大好きな花火のはずなのに。
「…やっぱ侑士、誘えばよかったかな…」
隣に居ない相方を思って、膝を抱えた。

昨日偶然見てしまった。侑士が女の子に誘われてるの。
近所の神社で祭りがあるから一緒に行きたいって。

答えなんて分かってるクセに。
侑士は俺を置いてったりしないのに。
けれど今日は一人で花火。
怖くて聞けなかった。
花火しよって、言えなかった。
都合が悪いって、言われるのが怖かった。
最後の線香花火に火を点ける。
つんと鼻につく匂いが、涙をさそった。
ぼんやりとする光。
赤い炎がゆらりと揺れた。


「俺もよせてほしいわぁ」
「え!?…あぁ!」
顔をあげた瞬間、振動で落ちてしまった線香花火。
「あーぁ…俺のせいとちゃうで?」
ぼんやりと映る影が、俺のそれと重なった。
「ゆ…」
「お前んち行ったらなぁ、おばちゃんが何や花火大量に持って公園出かけた、言うから。忍足くんと一緒やて言うてたけど言われてびびったやないか」
侑士の手には袋が下がっていて。
中には花火が入っていた。
「一緒にしよ。二人の方が楽しいで」
「……」
「な?」
「…うん」

侑士が笑う。
きっと俺が考えてた事、全部見透かされてるけど。
何も言わずに笑ってくれた。
「侑士」
「ん?」
「すき」
「はは…唐突やなぁお前は」


色とりどりの光の中で、キスをした。
虫の声がする。
夏ももう終わりだ。

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