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□首
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「ぐっ」

苦しい。
誰かが私の首を締めつけている。
誰なのか知るために重い瞼を持ち上げる。

「…。」
私は、息をのんだ。
美しい。と言っていいのかわからないが、美しい。

彼女は、とても長い漆黒の髪の毛を、重力で地球の中心に引っ張られていて、
暗くてよくわからないが私の頬を伝う水から、涙を流しているのだと伺える。

彼女は、とても苦しいそうな声で呟く。


「お前…首を…」

よく聞き取れないが、私の首をどうにかしたいらしい。
すでに私の首を締めつけているわけだし。


そんな観察作業を続けていると、ついに彼女の手に力が入る。

「う゛、っ」

苦しい。苦しい。苦しい。
私が苦しいはずなのに、彼女の口から漏れる声の方が、苦しそうである。
あぁ、脳にだんだん酸素が回らなくなっていくのがわかる。

視界が霞み、口からは、嗚咽が漏れる。

人が死ぬとは、こんなに簡単で軽いものなのか。

最後なのだろう。彼女の腕に力がこもり、彼女の顔が私の顔にスレスレまで近づいた。


彼女は………
髪の毛は、あるのだ。
しかし、どういうことだろう。
首から上が、ない。
無いのだ。


視界が暗くなる。
「……。」

暗闇の中むくりと起き上がる。

夜明け前なのか、夜更けなのかわからない。

そんなことは、今関係ない。

私は、生きている?
死んだのか?
だとしたら、ここは『あの世』なのか?
それとも、夢なのか。


夢ではないな。
そう確信して
障子を開ける。

月がこちらを照らす。
まだ夜更けなのか。

足はある。
体も透けてない。

私は生きているとしよう。

夢のなかの彼女は、なんなのだ。
私の首をしめ…………




そもそも、どこだった。暗闇ではなかった。

月だ。月が輝いていた。
そして水。池?
沼があった。



所詮夢だと思考回路を停止させようか。

しかし…あんなに生々しいものか。今も首のあたりがヒリヒリする。

予知夢かもしれない。
 

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