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□sweet....
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手を離して体を丸めて眠るその姿は、初めて出逢った頃から変わらない。
広いベッドの真ん中に丸い膨らみ。


「な、にしてる?」

「さぁ…」


目をまん丸に見開いて額を必死に拭っている。
私にも自身が理解できないなんて、有り得るわけがない。

だが、わからない。何故この子どもの額にキスをしてしまったのか。


「…お前、悪魔の癖に男色の気があるのか?」

「いいえ、私はその様な趣味は御座いません。」

「見ろ、お前のせいで鳥肌が治まらない。どうしてくれる。」


表面上は嫌がっている割に、坊ちゃんからはその気配がしない。


「砂糖菓子なのか確認をしてみただけですよ。」

「…お前、馬鹿だったのか?」

「馬鹿とは酷いですね。さて、お喋りはこの辺にしておいて、お休みなさい。」


嫌悪感は感じ取れないが、その他の感情も感じ取れない。
この子どもに関しては偶に私でもわからない時がある。




静かな寝息が聞こえてきたところで、いつもなら直ぐに部屋を出ていくのだが…

今はまだこのあどけない寝顔を眺めていたいような気がする。
また、何故かはわからない。

しかしそんな“感情”というものが悪魔に理解できる訳がない。


起こさないようにもう一度そっと額にキスをしてスッと消えるように部屋から出て行った。


明日の仕込みをしている最中、何度も坊ちゃんの寝顔が脳裏に浮かぶ。


背後から微かに物音がしてハッと振り向くと、そこには先程眠りに就いたはずの坊ちゃんが立っていた。
泣きそうな顔をしている坊ちゃんと目線を合わせるように片膝をついて、優しく問い掛ける。


「どうなさいました?怖い夢でも見ましたか?」

「違う。」

「では、何か…いっ、ぼ、坊ちゃん?」


怖い夢でないなら何なのか訊こうとすると、髪の毛を思いっ切り引っ張られた。

若干、坊ちゃんの頬が膨らんでいるのは気のせいではない。完全に拗ねた時の顔だ。


「僕は部屋から出て行けなんて命令はしていないぞ。」

「一人で眠りたくないのならそう仰ってくだされば、朝までお側にいますよ?」

「…うるさい、もういい。」


手を離して私に背を向け部屋に戻ろうとする拗ねた坊ちゃんを後ろから抱き上げる。
案の定目をぱちくりさせて驚いた。


「こんな薄着で…まったく、風邪を召されますよ。」

「お前の方が冷たい。」

「坊ちゃんを抱えていると丁度良い体温になります。」

「僕で暖を取るな。」


そのまま部屋まで連れて行く間中、私の言うことに一々減らず口をたたく。


安心して眠たくなってきたのか徐々に口数も減り、私の肩口に頭を預けてくたっとしてきた。


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