ブック

□sweet....
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蝋燭などいらない
月光でこんなにも明るいのに。



主はもう眠っているだろうか。



いや、まだ読書に耽っている。
主の部屋に近づくにつれそんな雰囲気が感じ取れた。

――コンコン


「…入れ。」

「失礼致します。坊ちゃん、もう眠らなくてはお身体に障ります。」


とっくに日付の変わった時間帯。
屋敷に響かぬよう控え目にノック。
何も疑心を抱かず入室を許可をした、ベッドで半身を起こし読書をする小さな主。


「まだ、平気だ。」


こちらをチラリとも見ず、ページを捲る。
眠たい目をしているのに、先が気になるのか一生懸命目線は文章をなぞる。


「いけません、もう今にも瞼が閉じそうな目をしてらっしゃいます。続きはまた今夜お読みになって下さい。」

「まだ夜だぞ。」

「日付は変わっております。」


眠たそうな目で睨まれても、ただの子どもが反抗しているようにしか見えない。
ここで、小さな欠伸をしてやっと本をサイドテーブルに置いた。


「嗚呼、こんなにも冷えてしまって。」


寝かせようと肩に触れれば、坊ちゃんがビクッと震えた。


「冷たい、触るな。余計に冷える。」

「はいはい、ほら肩まで入って下さい。」


どこの家政婦だと言われたが聞こえぬ振りをして掛け布団を肩までかける。
さて、自分は出て行こうかと一歩踏み出すと、後ろに引っ張られてしまった。


「坊ちゃん?」

「…」


子どもらしい小さい手に燕尾服の裾を掴んで、寝た振りをしている。


「わかりました。ここに居ますからお休み下さい。」

「もう寝てる。」

「そうですね。」


坊ちゃんの額にかかった髪の毛を優しく払うと、その手を急に掴まれて強く引かれた。
しかしまあ、私と坊ちゃんでは体格が違いすぎるのでびくともしないのだが。


「…少しはよろけたらどうだ。」

「残念ながら坊ちゃんの力では無理ですね。」


悔しそうな顔をして、ぐいぐいと掴んだ手を引っ張っている。
その様子を見て口元が何故か緩みそうになる。


「何にやけてる。」

「おや、バレていましたか。」

「もういい。」


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