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□tea....
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朝露がキラキラ。

輝いている白薔薇。

棘がまるでキャンディのよう。


この屋敷には、おかしがたくさん。
中庭には飴細工のような草花
裏庭にはチョコレートケーキのような薪置き場
シャンデリアは水飴
テーブルは大きなビスケット
呼び鈴は銀紙に包まれたウイスキーボンボン


それから――


「…紅茶?」

「いいえ、私は執事ですが。どこをどう見れば紅茶に見えるのですか?」


驚いた、てっきり紅茶味のキャンディかと。
だってまん丸で透き通った紅茶色。
甘い香りまでしたというのに。


「坊ちゃん、何か御用があったのでは?」

「呼んでない。」

「私は坊ちゃんに呼ばれましたよ。」


確かに呼び鈴に触れはしたが呼んだつもりではなかった。
音が鳴っただけだ。

デスクに散らばる書類に目を落とそうとすればまた、目の前に紅茶のキャンディ。


「まだ居たのか。執事の癖に暇そうだな。」

「いいえ、全く暇ではございません。今この瞬間にもどこかで仕事を増やされていますからね。」

「ならば早く片付けてくれば良いだろ。」
はぁ。と眉尻を下げ溜め息を吐くこの完璧な執事を見ると、もう少し困らせたいという衝動に駆られる。

僕の思考を読もうとせず、人間らしく考え込んでいる。
僅かに眉間に皺を寄せ、顎に細い指を這わせ考える姿は悪魔のくせに美しい。


「降参です。」

「あっさりと降参するのだな。」

「人間は面倒ですね、さっさと言葉にしてしまえばいいものを一々ゲームのようにするなん、」


ペロ


「っ坊、ちゃんっ。」

「…甘くない。ヌルヌルした。気持ち悪い。最悪だ。」

「ご自分でなさったことでしょう。何故私の目を舐めたのですか…」


紅茶のキャンディのようだから。
なんて、決して言えないし言いたくもない。
それにこんな間抜けな表情をした悪魔なんて、そうそうお目にかかれない。
しっかりと目に焼き付けておかなければ。


「私の目は紅茶のキャンディでは御座いません。」

「な…っ貴様、僕の思考を読んだな!?」

「ええ。全くあなたという人は…考えなくともわかるでしょう、目玉が甘くないことくらい。」


わからないだろう、悪魔の目玉なんて舐めたことがないのだから。
…一般的な悪魔のイメージで想像すれば、気持ち悪すぎる。

それでも甘い香りがしたのに。
何故甘くないのだろうか。


「ひっ」

「おや、坊ちゃんの目玉は甘いですね。」

「…甘いのか。」

「ええ、味覚はあるのでわかります。目玉が甘いのかそれとも―」

「何だ?」


全身、砂糖菓子のように甘いのでしょうかね?今夜、確かめに参ります。


そう耳元で囁かれ僕が奴にペンを突き刺そうとした瞬間には、もう消えていた。


火照る顔を気にしながら耳を澄ませば、セバスチャンの説教が聞こえる。

一つ深呼吸をして椅子に座り直すと何かポケットに違和感。
ゴソゴソと探ると中から透明なセロファンに包まれた紅茶キャンディが出てきた。
あいつだ。あいつが入れたに決まっている。

まるであいつの目玉だな、なんて気色の悪い事を考えながらセロファンを剥がしペロリと舐めてみる。
すごく甘い。
口に含んで、中断していた書類にサインをしていく。




舌が痺れるほど甘いソレは
僕にはちょうど良い。


他の奴には甘過ぎるだろう。


だから“紅茶キャンディ”は僕の物。


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