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□trauma
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長い毛足の絨毯にぺたりと座って絵本を舌足らずな口調で一生懸命読んでいるシエル。
そんな息子を優しげな眼差しで見守るヴィンセント。
「シエル、楽しそうだね。」
「わあ、おとうさま?」
急に抱き上げられて驚くシエルの柔らかい頬にキスをすると、ヴィンセントの首に腕を回して嬉しそうに笑う。
「一緒に遊ぼうか。」
「うん!」
絵本を置いて、シエルを抱っこしたまま寝室に向かう。
無垢なシエルはヴィンセントの黒い笑みに気が付かない。
「まくらなげ?」
「いいや、シエルにすごく似合いそうな物があるんだ。ほら。」
じゃーん! と効果音が付きそうな勢いで取り出したのは猫耳付カチューシャとピンで留められる尻尾。
それらを見たシエルの目がキラキラと輝く。
「おとうさま、ねこ飼うの!?」
「…えーと。」
何やら見当違いな事を言っている息子に苦笑する。
ヴィンセントはベッドに座って膝にシエルを乗せて、カチューシャを着けて尻尾を着けさせると満足げに頷いた。
「うん、やっぱり似合うよシエル。」
「ほんとー?」
「私の可愛い子猫ちゃんだね。」
褒められてはしゃぐシエルの喉を擽るヴィンセントの繊細な指の動きに跳ねるシエルの身体。
「ひゃははははっおとうさま、くすぐったいぃっ」
「猫はこうすると喜ぶんだよ」
「やぁあっきゃはははっ」
シエルの笑い声に混じって聞こえる“アレ”な声にドキリとする。
ヴィンセントの指が尻尾が付いている臀部をふにふにと摘む。
「おとうさま、どうしたの?」
「流石にまだいけないね。」
あらぬことを想像していたヴィンセントは不純な考えを振り払うように、いつもの父親の顔を貼り付ける。
そして心配そうに見上げているシエルをベッドに寝かせて覆い被さる。
キョトンとしているシエルにニッコリ笑って手を伸ばした。
「ぁはははははっくすぐっひゃああっ」
「早く大きくなるんだよ。」
猫耳が着いた頭を振り乱して擽るヴィンセントの手から逃げようと暴れる。
それでも大人の力には適わない。
泣きべそをかいてヴィンセントに止めてと訴えるシエルを見下ろしてゴクリと喉を鳴らす。
「止めてぇえ…ふぇぇ…」
「ご…ごめんね、シエル。」
慌ててシエルを抱き上げて、猫耳が付いたままの頭を撫でる。
ヴィンセントを見上げてぷうっと頬を膨らませ、ぼく猫じゃないもん!と怒る息子にもう一度謝った。
実はこの日の出来事が原因で猫アレルギーになったという事を幼いシエルはもちろんの事、ヴィンセント以外は知る由もないのだった。
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