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□Lovely fragrance
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泡まみれの坊ちゃんの傍ら、私は坊ちゃんに吹かれて飛んでいく泡を見つめる。

先程洗って差し上げた髪の毛にも白い泡が乗っていて、それを取り除くが坊ちゃんが動くのでまたすぐに泡が乗ってしまう。


「坊ちゃん、そろそろ上がって頂かないと逆上せます。」

「まだ平気だ。」


実は10分前にも同じ会話をした。
まだ平気、まだ平気と言っていつも逆上せるのはどこの何方ですか。

本当にもう少しだけですよ、と言うと、ん。なんて生返事が返ってきた。






「ほら、だから申し上げましたのに。」

「うるさい…眩暈がする…」


あの私の一言の数分後、案の定坊ちゃんは逆上せてしまい、現在、寝室で横たわりぐったりして文句を垂れている。

いつになればご自分の体調の変化が判るようになるのでしょう。


「…大丈夫ですか。」

「大丈夫に見えるか?」

「いえ、一応伺ってみただけです。」


大分顔色は元に戻ってきているが、それでもまだ普段よりも赤い。
今は閉じられている開ければ潤んだ大きな瞳。
長い睫にそっと触れると擽ったそうに目を擦り私の指先から逃げる。


「触るな、擽ったい。」

「坊ちゃん、まだお身体が熱いですよね。」

「ああ…」


その返事を聞いて、脱力している坊ちゃんを抱き締めた。


「貴様、何をする。」

「冷やして差し上げようと思いまして。」

「嘘をつくな、弱っている所をつくなんて卑怯だぞ、お前。」


私は嘘を申しません。
燕尾の上着を着ていない私は、より一層密着できるよう、ベッドの端に腰掛け坊ちゃんを腿に乗せて抱き直す。

坊ちゃんの熱が私の冷たい身体に移り始めた頃、背中に細い指が這って、そのままシャツを握られた。


「…冷たい。」

「ね、嘘ではなかったでしょう?」


無言で頷き私に身体を預けて、くったりとしている。私の目線の先には細い項。

柔らかい髪の毛に顔を埋めると石鹸と坊ちゃん本来の香りがしてその心地好い感覚に酔いしれる。


「…何だ、甘えたくなったのか?」


悪戯を仕掛ける時のような坊ちゃんの声色。


「いい香りです。」

「…お前もな。」

「えっ、坊ちゃん?」


驚いた。
坊ちゃんがそんな事を思っていたなんて。
私が坊ちゃんの香りを堪能しているように坊ちゃんも私のにおいを、感じていたとは。


「今夜は、隣で寝る事を許してやる。」

「おや…宜しいのですか?」

「お前が珍しく甘えてきたからな。」


それに、僕のにおいを嗅いでいたいんだろう。


そう私のせいにして、決め付けて、
きっと坊ちゃんも私と同じ心情。


今宵は互いの香りに包まれて、眠りましょう。



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