短編(^^)
□理想パラノイア
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私は江戸で着物の仕立屋を営んでます。
父と母が早くに他界して、一人娘の私が店を継ぐことになったのです。
「まだ若いのに大変だねぇ」
と、近所の人達は何かと私を気遣ってくれて、お陰で大変ながら楽しい生活をしてます。
だけど、私には唯一の悩み事があるんです。
それは、大好きなあの人の浮気性。
私という者がいるのに、この家に帰ってきやしない。
本当は心配で心配で胸が張り裂けそうだけど、仕事を頑張らなくちゃ。
これは母の形見の裁縫鋏。
研げば研ぐ程、よく切れるんです。
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今日も江戸の街はいつもの通り。
なんて穏やかで平和な日常なんだろう。
こんな日には散歩に限る。
そう思って大通りを歩いていたら、あの人を見つけた。
…彼の隣には、桃色の着物が良く似合う綺麗な女が寄り添って歩いていたけど。
どうして
どうして
仲睦まじいその姿は、私にとっては苦痛以外の何物でもなくて。
走ってその場を去りました。
――…だけど仕事は頑張らなきゃ。
どんなに辛くても、
頬を涙で濡らしても、
鋏を片手に持ちまして、
私は今日も仕事に精を出します。