小説

□月下の剣風
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月下の剣風 [風の神話 上]


見上げた大空はただ青く澄み渡り、どこまでも広大で、何よりも美しい。
その大空を自由気ままに駆け抜ける風は何者にも縛られず、今までもこれからも言葉通りの自由だ。
シルバ・バレンシアはただ風を体に受け、歩き続けた。
腰まで届く黄緑色の挑発は風になびき揺れ、男の欲望をそそるに充分かつ見事なプロポーションを黒く錆びたような色のコートに包んでいた。端整な作りの顔は前髪で目が隠れている。

薄汚れたバッグを背負い、右手に今まで自分を支えてきてくれた「相棒」を持ち、彼女はただ目的地を目指して歩き続けた。

「……」

話し相手も無く、ただ歩くだけの時間が過ぎるが、決して退屈なわけではない。
いや、正確には歩き疲れていて、退屈を感じる余裕が無かったのである。

「……ハァァァァッ」

シルバは今までの疲れをため息に乗せて吐き出し、限界が近づいていたため近くの草原にゴロンと寝転がった。

(イルムシャーの街を出て3日目、そろそろウィスプーラムの街についても良いのに……まさか、間違えたのでしょうか?)

急にシルバは不安になり、背負っていたバッグから地図とパンを取り出して、パンを頬張りながらこの西の大陸の地図を眺めた。

この時代、世界は5つの大陸に分かれていた。

独自の文化を築き、一部の港を除いて他大陸とは鎖国状態にある東の大陸。

1年中温暖な気候が続き、エルフ人口が多く、5大陸中で最も過ごしやすいと言われている西の大陸。

来る者を拒み、住む者を鍛え上げる灼熱の大地と上質な鉱石を基盤に武力大陸と化した南の大陸。

冬には海が凍り航路変更を余儀なくされるが、極上の宝石や海産物が採れ、自然の厳しさ自然の恵みを最も感じる北の大陸。

そして、未開拓の中央大陸。

それぞれの大陸は他大陸に興味をあまり示さず、1つになる事はなかった。
半年前までは。

(モタモタしている時間はありません。急いでシオンとゲイルに会わなければ…!)

急かすようにシルバはパンを口に押し込み、地図をバッグに突っ込んでから勢いよく立ち上がり目的地のウィスプーラムの街へと急いだ。
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