小説
□デザイア
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第一話 [空虚]
「ん……むぅ…」
激しく窓を叩く雨の音と、殴るような風の音。
その音達を目覚まし代わりに東 楓(あづま かえで)は目を覚ました。
まだボンヤリと意識が重く、ハッキリしない。
それでも、夜はまだ長く、朝には程遠い時間だという事は本能的に分かった。
「……」
寝返りをうって、枕元の携帯電話を手に取り時間を確認する。
ディスプレイが暗闇に慣れた楓の目に強く輝き、ウッと顔をしかめさせる。
目を何度か瞬きさせて、何とか時間を見ると午前一時五分だった。
「ぬむぅ……」
舌打ち混じりに唸り、方眉をつり上げると面倒くさそうに楓は携帯電話を放り出し、毛布を掛け直した。
だが、また寝直すのは当分先だろうと自覚している。一度目が覚めれば、楓は眠れない人間だった。
「……まぁ、仕方ないよね」
こんな夜中に起きてしまった自分を呪いながら、何もない暗闇を見上げる。
薄暗い夜の闇の中では天井との距離感がつかめず、あり得ない話だが手を伸ばせば届きそうだった。
「………」
しばらく天井を見上げていたが、寝返りをうち枕に頬をこすりつけた。
何する必要も無く、ただ同じような事を繰り返し考えて、時間が止まってしまったような奇妙な感覚を味わう。
そして雨が止み、空が明るくなり始めた頃、楓の意識は遠くゆっくりと落ちていった。