戦国無双

□飛ベナイ烏
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気配を絶って幾許もなく、砦付近には兵士はおろか、猫一匹の気配も感じなくなった。

「そろそろ頃合か」

孫市は慎重に一歩一歩砦の出口へ向かった。

そして、ふと感じた悪寒に素早く後ろを振り返り、銃を構えた。

そして、視界に入ったそいつを見て、肩が震えた。

「どうして・・・お前が・・・っ!」

目の前にいたのは、先刻確かにこの手で撃った相手。

心臓を射貫いたはずだ。

「あの時・・・殺したはず・・・」

目の前の光景が夢か現か。

もはや冷静さを欠いた孫市にはどうでもよかった。

「うぬの答えを聞く為に地獄から這い上がってきた」

そう言う信長の顔は笑っている。

「答え・・・」

「信長のいない世に、うぬは何を望む」

「俺・・・俺は・・・」

孫市はただ頭を抱えることしかできなかった。

「うぬにこの無明荒野が背負えるか」

「やめろ・・・」

「うぬには信長の業は重すぎるわ」

「やめろっ!!」

叫ぶ孫市。

そのまま地面にしゃがみ込む。

「・・・・・」

「・・・・・」

暫しの沈黙。

「・・・・わからないんだ」

口を開いたのは孫市。

「どうしていいか、俺にはわからねぇ」

「・・・勝手な男よ」

信長の頬が微かにあがる。

それが孫市に見えるはずもなく・・・

「解放してやろうか」

「・・・え?」

「うぬを苦しみから救ってやると言っておる」

救う。

今の孫市にとって何よりも甘い誘惑の言葉。

「・・・どうやって?」

「簡単なこと。全てを忘れ、楽になれば良い」

伸ばされる手。

「狂うのだ、孫市。壊れるほどにな」

俺はこの手にすがる他、道はない。

孫市は伸ばされた手に自分の手を重ねた。

壊してくれ。

全てを忘れられるほどに。



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