戦国無双
□マインドゲーム
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異世界へとつなぐ時空の狭間で、大きなブラックホールが突如として現れた。
多くの兵が飲み込まれていく様に絶望を感じ、成す術もなく呆然としていた清正が、自分が瞬く間に闇へと引きずられていることに気付いた時には、もう後の祭りである。
目の前の巨大な闇にどうする事もできず、思わず目を閉じたその時、一つの大きな風が身体を包み込むのを感じた。
闇とは別の方向にのけ反る身体。
それでも瞳はしっかりその者を捉えていた。
「まさ、のり・・・?」
闇にのまれていくその男の顔は、この場の誰よりも活気に満ち満ちていた。
正則は笑っていたのである。
これが死に向かっていく者の最期の顔なのか。
闇のその先こそが、まるで極楽であるかの様に。
しかしそれもまた、清正を欺く正則の残酷な笑みである事は、清正にも理解できた。
「正則!嫌だ、正則っ!」
思わず手を伸ばしたその身体を強引に引き戻した者に向かい、正則は声を張った。
「三成、清正を、よろしく頼んだぜ」
離せ、三成!そう言って腕の中で暴れる清正を押さえ込みながら、声の主に向かい、三成は大きく頷いて見せた。
その所作に安心した正則は再び視線を三成の腕の中で泣きながら自分の名前を呼び続ける最愛の人に戻した。
どんどん闇に飲み込まれる視界の中で、その者だけをいつまでも目に焼き付けた。
「清正・・・」
愛しい者を呼ぶ時だけ、自然と柔らかくなる声。
その声に、清正はしゃくり上げながらも、正則と視線を交えた。
目が合ったその刹那、今までのどの言葉よりも残酷な言葉を放った。
「ごめんな、ここでさよならだ。」
最高の笑顔と一緒に闇へと消えた正則。
あまりに淡泊、あまりに残酷なその言葉を清正は、その耳に確かに聞いたのだった。
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