庭球夢

□図書室の王子様
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『………と‥れ‥ない…!!』





私は図書室の1番上の棚に向かって手を伸ばし、


絞り出すようなうめき声を漏らしていた。





『あぁー‥無理だ‥』





取りたい本に向かって手を伸ばせば、王子様が「これ?」と言って取ってくれる――…


そんな展開はそう簡単には起こらないらしい。





「…――これか?」





突然頭上から期待していた言葉が降ってきて見上げれば、


最初に目に入ったのは見慣れた包帯。





『ぁ白石』


「これか?」


『えっとーその右隣りの』


「これか」





白石が、私の目当ての本を本棚から取り出して見せた。





『うんそれー』





私より20cmくらい背が高い白石は、今し方取り出した本を私の頭上で眺めている。





『本取ろうとしてるとこ助けるなんて白石ベタ‥イデッ


「すまん手がすべった」





白石ベタなんだからぁ、と言おうとした瞬間


間髪入れずに上から本と思われるものが降ってきた。





『痛ったー!』


「俺がなんやて? 聞こえたらアカンもんが聞こえたような気がしたんやけど?」


『白石のすけべ! どーせ今みたいにベタなシチュエーションで女の子引っかけてんでしょっ』


「人聞き悪いなぁ。本棚に手ぇ伸ばしてる女の子がおったら誰でも手ぇ貸すわ」


『謙也でも?』


「おう」


『財前も?』


「多分な」


『金ちゃん』


「‥金ちゃんは分からんけど」


『ほらぁ金ちゃんはそういうベタな手使わないんだって』





いつからか遊び半分で私がそう言うと、ふ――‥と白石が私を見つめたまま、口を閉ざした。





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