ギャグ漫画日和

□背中越しに感じた、鼓動の終わり
1ページ/1ページ



トクン、トクン……………


芭蕉さんの鼓動が、背中を通して僕の鼓動とリンクする。
その音は限りなくゆっくりで静かで、芭蕉さんの生きる時間の短さを表してる様で、涙がこぼれそうになった。

独りだった僕に居場所をくれた貴方。
想いを伝えた時に見せた優しい笑顔。
初めて繋がった時の幸せそうな表情。

逝かないで下さい
僕を置いて何処かに行ってしまわないで下さい
1人に……しないで下さい

「東北に旅に出た時に、よくこうやって夜空を見たっけね、曽良くん」

「そうでしたか?」

忘れてる訳がない。貴方とした事は全て覚えてます。

「曽良くんとまた旅に出たかったなぁ。」

「僕はもう嫌ですね。どうせなら二人でゆっくり過ごしたいです」

きっともう、二人でなんて今日で最後になるだろうに。
そこまで言葉にしてしまう程、僕は子供ではなかった。

「それも…いいねぇ。温かいお茶でも飲みながら」

「そう、ですね……」

言葉が詰まって声が震える。
芭蕉さんの心音が、さっきよりか細くなったから。
「なんだか、眠くなっちゃったな……曽良くん、このまま一眠りしていいかな?」

死ぬ間際の顔は、見られたくないって、昔からよく言ってましたね。
まるで口癖のように。

「っ…今日だけ…ですよ。バカジジイ」

「相変わらず、酷いなぁ…ふぁあ…」

「っ芭蕉さん…」

「んー……?」

最後に、最後に言わせて下さい。
今まで一度しか言ったことの無かった言葉を。
心の中では何度も反濁した言葉を。

「愛して、ます。これから先、何があっても」

「ふふっ…嬉しいな…曽良くんから言ってくれるなんて…」


まだ貴方が逝くには早すぎる筈なのに、どうして今日なんですか?
まだ少し先でもいいんじゃないですか?
そんな想いは僕の頭をぐるぐる狂ったように回るだけ。

「おやすみ、なさい……芭蕉さん」

「うん…おやすみ曽良くん」


芭蕉さんの身体から力が抜けたのと同時に、微かに
なっていた心音も、静かに音を止めて、
僕の両目からは、涙がとめどなく溢れていた。




(でもあなたは、僕が貴方を追うのも、きっと許してはくれない。)

(曽良くんがこっちにくるのは、うんと先がいいな。こっちに来るには、君はまだ若すぎるから)




.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ