ノベル2

□強さの在り処
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※赤也女体化設定です








地面の埃を掬うような風が舞う校舎の屋上。

「こんなところに呼び出して…なんスか?」




強さの在り処




一方静かに賑わう昼休みの図書室。
図書室には不似合いな銀髪の男ががらがらとその扉を開けて、ずかずかと足を進める。
目当ては本ではなく、どうやら人物のようだ。

「よう参謀」

「…仁王?どうした、珍しいな。」

「いや、さっき赤也がの、」

赤也、という名前に僅かに柳の眉間がぴくりと動く。赤也とは女子テニス部の2年生で、つい最近柳と付き合い始めたばかりだ。先週二人で帰っているところを丸井が見かけてレギュラー全員に知れ渡ることになった。

「赤也が、3年の女子に囲まれて屋上に上っていくとこを見たんじゃが…」

「…?赤也は上級生と仲が良かったか?」

「はぁ…わかっとらんのう、参謀ともあろうお方が。」

大げさなアクションでため息をつく仁王に、柳は少しだけむっとなる。無論、表には出さないが。

「何が言いたい?」

「お前さんはモテる。」

立海の生徒会に所属しながらテニス部レギュラー三強の一人、更には長身で端整な顔立ち、その柳が女子から一目置かれないはずがない。仁王のような誰の目にも明らかなモテ方ではなく、柳のことは遠くから見ているだけで十分という女子は大勢いる。自分のものにはできないと知っているのだろう。それ故に誰のものにもなってほしくない、という感情も同時に生まれる。

「モテるのはお前の方だろう。」

「いや、俺のソレとは少し違うんじゃ。おそらく参謀に彼女ができたと聞いた女子どもが嫉妬でもして赤也をシメておこう、とかいうところじゃろ。」

「理解できん…女子というのは、可笑しな生き物だな…」

そういうと柳は読んでいた本をぱたりと閉じて、それを片手に持ったまま図書室を出て行く。
仁王はそれを見届けてから、推理小説のある棚へと猫背でひょこひょこと歩いていく。もちろんそれも本が目当てなのではなく、推理小説好きの人物が目当てであるが、それはまた別の話。

柳は少し足早に屋上のある階段へと向かい、それを昇っていく。

女の嫉妬とはどれほどのものだろうか。それが自分に向けられるなどまったく意味がわからないが、とにかく赤也が心配である。

と、そのとき屋上のドアが勢い良く開いて見覚えのある同級生の女子たちが数人駆け下りてきた。何かに恐れているような表情で逃げるようなそぶりだ。更に柳に気づくと一瞬驚いた表情を見せてそそくさと走って行った。

「あいつ、まじやべえよ…」

そう囁き合うのが微かに聞こえた。

何が起きているのかいまいち理解できずに柳はそのまま屋上へと足を進めた。

そこにいたのは仁王立ちで「口ほどにもない奴らめ」などともらしている後姿で、それは間違いなく赤也だった。

右手に持っていた文庫本でその頭の天辺をぽんとたたいてやると、肩で驚いてこちらを振り返る。

「何事だ…」

「あ、や、なぎさん?なんでここに?」

「仁王からお前が屋上にいると聞いてな、何があったんだ?」

「な、なんでもないっスよ!」

「なんでもなくは、ないだろう…」

赤也の唇の端がうっすらと切れていて血が滲んでいる。手のひらでそっとその辺りに触れると赤也は伏し目がちに俯いた。

「何かされたのか?」

「…何も、されてないっス…」

そう言い張る赤也の唇の端に滲む血を親指の腹でそっと拭ってやる。するとやはり痛かったのか、赤也はぴくりと反射的に顔を動かした。

「血が、出てるぞ。」

「……だって…アイツら、俺が柳さんとは釣り合わないから別れろって…言うから…ぜってーヤダっつったら向こうがカっとなって殴りかかってきたんス……でも…勝ったっスけどね?」

上目遣いで唇をとがらせながら生意気なことをいう俺の頼もしい彼女。

「そうか…それでもお前に何かあっては心配だから次何かあったら絶対に俺を呼ぶんだぞ?」

「大丈夫っスよ。俺、どんな敵が襲ってこようと絶対に柳さんを守ってみせるっスから!」

「それは頼もしいな…って、何か話が違ってきてないか…?でもまあその度に唇の端を切られては、やはり困るな。」

「へ?」

軽く啄ばむようなキスをすると、赤也はまた反射的に顔を動かした。

「てっ」

「ほら、お前が痛そうにするから、かわいそうでキスができないだろ。」

「え、あ…へ?」

「ふっ、赤也、真赤だぞ、顔。あははっ」

「な、そんな笑うことないじゃないっスかぁ!」

「ははっ、本当に可愛いな赤也は。」

柳はくすくすと笑いながらくしゃくしゃと赤也の頭を撫でる。



頬を掠めていく風がやけに冷たいのは自分の頬も赤くなっているからだろうか。それならば見られないようにと、赤也を引き寄せて抱きしめた。

自分のよりずっと小さくて細い体。

もう絶対に誰にも、掠り傷ひとつつけさせやしないさ。

赤也を想えば想うほど、強くなれるような気がした。そしてそれは少し怖くもあるような、そんな気がした。






end…





********
あとがき

「常に勝者であるために」の氷狩さまへ☆
相互記念SSです。
にょたやを描いて頂いたので、にょたやSSを書いてみました…!
お粗末ですが貰ってやってくださいませ!

20091126晴雨

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