ノベル2

□それはきっと永遠の
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※柳に彼女がいます








それはきっと永遠の






昼休み、切原が机に伏せて居眠りしていると女子達が何やら騒ぎながら教室に戻ってきた。煩いと思いながらも切原は睡眠に意識を集中する。
それでも女子達の甲高い声は否応なしに耳に入り込んでくる。


「……柳先輩……が……なんて…」


今なんつった?

想い人の名前を聞き取ってしまい、落ち着かなくなった切原は、今度は女子達の会話に意識を集中してみる。

「中庭で一緒にご飯食べてるの見ちゃったよ〜あれ彼女かなあ…なんかショック!」

「柳先輩は誰のものにもなって欲しくなかった〜…」

ああ、その気持ち…すっげわかる。

って、彼女!?




きっと何かの見間違いだ。
生徒会の人と用事があったとか、きっとそんなオチだ。


しかし胸に刺さるような冷たく不快な動悸が治まらない。


その日の部活で柳は浮かれているわけでも沈んでいるわけでもなく、つまりはいつもと変わったところはなかった。
それでも切原の動悸は治まらない。

「赤也、準備できたか?鍵閉めるぞ。」

「あっ、はいっス。」

ネクタイを適当に結んで足早に部室を出ると柳がかちゃりと鍵を閉めた。
いつもと同じ光景。
いつまでも変わらない筈の習慣。
柳は荷物を肩に掛けて、ちゃりんと音を鳴らして鍵を鞄に仕舞い込む。
その一連の動作を切原はぼんやりと眺めた。

「ねえ、柳さん?」

「ん?なんだ?」

「今日うちのクラスの女子どもが柳さんに彼女ができたーって、騒いでたんっスけど…」

「ああ、もうお前の耳にまで届いているのか。噂というのは本当に早いな。」

柳は特に表情を変えることもなくあっさりと肯定する。

嘘…だろ…?

「だが、それが騒ぐほどのことか?」

ぽつぽつと歩きながら並んで校舎を出る。真赤な夕陽が二人の背中を焼き付けるように照らした。不ぞろいなふたつの影が前方にだらっと伸びている。

「柳先輩は誰のものにもなってほしくない、って、言ってたっスよ。」

俯き加減にそうつぶやくと、なんだそれは、と悪くなさそうに笑った。

痛い。

空気すら肌にぐさぐさと刺さるように痛い。






彼女と手をつないで歩いたりするのだろうか。
(大きくて華奢で綺麗な手)

もう、キスはしたのだろうか。
(色も形も薄くて笑うと綺麗な三日月みたいな唇)

熱のこもった瞳に彼女を映すのだろうか。
(すっと筆で線を引いたような美しい瞼に、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳の色)

その声で好きだと愛を伝えるのだろうか。
(体に響いて全身に染み渡るような低い声)

その腕で彼女を抱きしめるのだろうか。
(何にだって届きそうなすらっと伸びた長い腕)

きっと男とは違うやわらかい感触に、興奮したりするのだろうか。







もうずっと、大声を張り上げて泣き叫びたいような気分だ。




「俺に彼女がいたって、お前に彼女ができたって、お前は俺の大事な可愛い後輩だ。それだけは変わらないよ。」

慕う先輩に彼女ができてしまい寂しそうな後輩に優しく声をかける。その優しさに偽りはない。

ぽんぽんと切原の頭を撫で、柳は手をひらりと振って今日の別れを告げる。

切原もそれにひらひらと手を振って応える。

俺は今笑えているのだろうか。

きっと歪んだ笑顔だろう。

柳さんなら気づいたかもしれない。

そんな風に少しずつ違和感を伝えたらいつか俺の気持ちに気づいてくれるだろうか。

でも、気づいてもらえたところで、どうせ。





柳が角を曲がって見えなくなったところで切原はとうとうぽろぽろと泣き出してしまった。
嗚咽だけは漏らすまいとしても、次から次へとあふれてくる涙に押し出されて声が漏れる。



「…っ…うっ…うう…くっ」



手で口を押さえたら余計に泣き叫びたくなってしまった。

俺はその彼女と同じスタートラインに立つことさえ出来ない。
戦うことすらできずに、諦めなくてはいけない。
柳さんが俺を好きになることは100%無いのに、俺は柳さんを想わずにはいられないんだ。これほど純粋な想いなんてきっと無いだろう。



「赤也」



振り返るあの優しい笑顔と低く爽やかな声が脳裏をよぎると、切原の涙腺はいよいよ決壊したダムのように涙を放出する。



ああ、好き。大好き。

手をつないで歩きたい。キスしたい。抱きしめられたい。



その瞳に俺を映して、その唇で俺を好きだと言って欲しい。



柳さんが彼女を想うより、彼女が柳さんを想うより、俺が柳さんを想う気持ちの方が大きくて深いと、自信を持ってそう言える。




だけど、それを誰に言えばいいんだろう。




わかっている。



わかっているんだ。



これはきっと、永遠の片想い。







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20090709晴雨

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