ノベル2

□貴方=世界
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パラレル/マフィア











ふわふわの白いシーツの海の中で瞼を開くと今日も柔らかな一日が始まる。
一人には余る程大きなベッドは少し寂しいけれど、今日は目覚めたら柳さんが居た。
俺の頭を撫でつけながら、もう片方の手で文庫本を開いている。
柳さんの視線は本に落とされたままだ。おそらく俺が起きたことに気づいていないのだろう。
広いベッドに、広い部屋、大きな窓から、見える大きな庭。

それが俺にとっての世界だ。

まだ少しだけ眠いから、再び瞼を閉じた。




貴方=世界




「赤也…赤也…」

すっかり二度目の眠りについてしまった俺を呼ぶ、愛しい声がする。その声はするりと体に染み渡り俺の血肉になっているんだと思う。
瞼を開いて起き上がると、俺は柳さんの頬っぺたにおはようのキスをする。そしたら柳さんはいつもぎゅっとハグして返してくれる。
いつもスーツを着ている柳さん。俺の大好きな柳さん。その細身のスーツは柳さんの長い手足にあわせて特別にあつらえたものだという。幸村さんがプレゼントしてくれたのだと言っていた。そのときの柳さんは珍しく少し嬉しそうだった。

「今日は仕事だ。」

俺は"仕事"をしている。
俺の存在はこの"組織"に無くてならないものだと柳さんはいう。

スーツを着るのは、あまり好きじゃない。いつも少し体より大きな白いパジャマを着ているから、窮屈に感じる。

柳さんのスーツ姿は格好いい。隣に並ぶと自分が幼く思えて少し気後れしてしまう。

「参謀、赤也の準備はできたかのう?」

こんこんというノックの音とともに訛った話し方の声が聞こえてきた。仁王さんだ。

「ああ、もう行く。」

柳さんはそう返事をして、俺の手を引いた。

仕事…仕事は余り好きじゃない。好きじゃないというか、よくわからない、というかいつも覚えていない。でも行かなきゃいけない。俺たちはただ毎日を生きるために生きている。っていうのは柳さんの口癖だ。

「今日は少し骨が折れそうだな。」

「ああ、神の子直々の指令じゃからのう。向こうさんもなかなかの強さということじゃ。」

「それでもうちが負けるということはないがな。」

仁王さんと柳さんは仲が良い。

うまがあうんだ

、と柳さんは言っていた。

仁王の前だと特に自分を隠す必要がない

、と。

そう言ったあと、とくべつなのはお前だけだよとキスをくれたから、心の中のもやもやは綺麗に晴れた。

俺たちはするすると路地を歩き、少しずつ少しずつ人通りの無い場所へと向かう。海のしぶきが少し遠くできらりと光った気がした。あの部屋から一歩出ればそこは仕事場。休息はない。

「参謀…」

「…ああ」

いつの間にか敵の包囲網の中にいることくらいは俺にもわかった。これでも一応訓練は受けてきたんだ。
柳さんが俺の耳に唇をつけて囁く。仕事の合図だ。

















「この×××野郎」

























再び目を覚ませばそこはいつもの世界。
白くて着心地のよい大きなパジャマに包まれて、シーツの波にうずまって、瞼を開けば柳さんがいる。

記憶を失うことは怖くない。

目覚めるといつも貴方がいてくれるから。

ご褒美に貴方がたくさんかわいがってくれるから。

貴方がいない朝も昼も夜も、貴方のことしか考えていないよ。

いつも瞳を閉じるときは、次目覚めたら、貴方がいることを夢見ている。

暗闇は怖くない。

怖くなんて、ない。

こんな日々がいつまでも続くってことを信じている。







end…










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あとがき

マフィアの知識についてはスルーしてやってください…。
ちゃんとした本編を構想中―。
皇帝とか紳士も出したいのですよ^^

20090623晴雨

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