短編小説
□白ウサギにお正月を
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『白ウサギ』
「は、い」
名前を呼ばれた気がして、まだ微睡みながらもそっと目を開ける。
「……夢、ですか」
見慣れた天井を目にして、寝起きながらも今のは夢だと答えを出す。体を起こすと、日頃の疲れからか頭が重い気がした。
最近何かと忙しいですからね……
店の経営に館の住人の世話。店の経営は忙しくも大きな負担ではないけれど、館の住人の喧嘩の仲裁や悪戯の始末がとにかく忙しい。自覚すると頭だけでなく体もずしんと重くなる。
窓の外は明るい光で満ちているのに、心は全く晴れない。むしろ、闇へ葬られるような憂鬱が襲ってくる。
……こんな時、アリスがいてくれたなら……
自分でも贅沢な願いだと思いはすれこそ、そう思わずにはいられない。
アリスが傍にいると、憂鬱な気分もどこかにいく。楽しい、とは遠からずも違い、安心する、でもなく。嬉しい、と言った方が正しいかもしれない。
とにかく僕にとって重要な存在――
「また会いたいですね」
以前会った時の強さを秘めた瞳と、優しい笑顔。
それらを思い出し、頬が緩むのを感じつつ、寝癖のついた髪を手で直す。真っ白な白髪に残る寝癖は、直ぐにすんなりと落ち着いた。
ふと、寝癖を直している最中、頭に生えたウサギ耳に触れ思い出す。
起きてから暫く経ち脳が動き出したのか、連鎖的に今日……今年が何の年か思い浮かんだ。
……今日は元旦、お正月。そして今年はそう、卯年です!
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