宝物

□お気に入り
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帽子屋邸の二階の廊下はとっても陽当たりがよくて、

特に廊下の中央にある窓の下はチェシャ猫のお気に入りでした。






((お昼寝の時間))






「これは………。」

なんともおかしな状況に私は呆然と立ちすくむ。
なんでこうなったのだろう、といろいろと思想をめぐらせるが答えは見つからなかった。


「………………」

目の前には常人には出来ないような柔軟な体勢で寝転んでいるチェシャ猫の姿があった。



「えっと…、チェシャ猫〜?」

戸惑いながらもそう声をかけてみた。
けれど、返事は返ってこない。

ひょっとして…寝てる?
廊下のど真ん中で?

いくらチェシャ猫でもそれはないだろう、と思いながらもしゃがんで顔を覗き込んでみた。


「チェシャ猫?」

そう呟きながら覗くと、気持ちよさそうに眠るチェシャ猫の顔が見えた。

やっぱり寝てる…

窓からは太陽の光が射し込んでいて、チェシャ猫の体を暖めていた。

確かにここで寝たら気持ちよさそうだけど…

呆れたようにため息をついてみる。
特に起こす理由もなかったのでそのままチェシャ猫の寝顔を観察することにした。


「…ほんとに猫みたい。」

小さく呟いて、チェシャ猫が寝ていることをいいことに、フワフワの髪の毛をさわった。
名前に“猫”とついているだけあって全体的に猫っぽい。
髪の毛だって猫毛だし。
今のこの体制だって、一体どうしたら出来るのだろう。
腕と足の絡まり方が尋常ではない。
これは人間業じゃないね、猫業だ。

なにより一番猫っぽいのは……


「やっぱり耳…ついてる。」

ボサボサの黒髪からちょこんと飛び出ている猫耳。
前から気になってたけど、これは本物?

さ、さわっていいかなあ…

なんだかうずうずしてきた。
不思議なことにチェシャ猫の耳をさわることにちょっとした罪悪感を感じる。
寝込みを襲ってるような?
いやいや!これは襲ってるんじゃなくてただの好奇心だもん!!

なんて心の中での葛藤中も視線は猫耳に向いたまま。


「ちょっとだけだし…いいよね?」

ごめん!チェシャ猫!

心の中で謝って、猫耳に手を伸ばそうとしたとき、ふと視線を感じたような気がして下を向いた。
そこには見慣れたチェシャ猫の顔と黄金色の瞳があって――――…


………あれ?



「おはよう、アリス。」
「うわあ!!おっ、おはよう…チェシャ猫…!」

い、いつの間に起きてたんだろ!

私は慌てて伸ばしかけていた手を引っ込めた。
そんな私に特に気にすることもなく、チェシャ猫は上半身を起こしうーんっと伸びをした。

よかった、気づかれてないみたい。

ほっと一息。
しかし安心して胸を撫で下ろしたのもつかの間だった。


「ところでアリス。さっき、なにしようとしてたの?」
「!…さ、さっきって?」

これってやっぱり…

「嘘はダメだよ。さっき僕に何かしようとしたでしょ。」

あぁ…やっぱりバレてた。

じーっと私を見つめるチェシャ猫。
無言の圧力というやつを、びしびし感じる。

これは言わなきゃいけない空気?
答えは聞くまでもない。

 
 
 
 
 
 
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