狐の嫁入り
□其の零、狐の子
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ある夏の日の夕暮れ。
まだ8月の初めだとあっ
てか、強い太陽の光がさ
んさんと地面に降り注い
でいる。
照り返りの激しいこの時
間に、学生服の少年が1
人、田んぼ道を歩いてい
た。
彼の名は夏目貴志。
今彼は学校の帰りで、さ
っき友人2人と別れたと
ころなのだ。
彼は生まれつき、人なら
ざる者、つまり妖という
物の類いを瞳に映すこと
ができる。
しかも『普通の人』と見
分けが付かないくらいは
っきりと見えるので、幼
い頃はそれが当たり前だ
、と思っていた。
そのせいもあり、よく人
から変な目でみられたり
、虐められたりしてきた
。
彼の両親はいない。小さ
い頃から親戚の家を転々
としてきた彼は、その親
戚からも『おかしなこと
を言う』と、たらい回し
にされてきた。
最近、ここに引っ越して
からは、一段と妖怪に関
わることが多くなった。
飼い猫として共に暮らし
ている「ニャンコ先生」
。
しかしその実は
器(招き猫)と同化するこ
とにより他の人にも見え
る妖怪で、彼の亡き祖母
とも知り合いである。
彼の祖母、夏目レイコも
また、強力な妖力を持っ
ていた。
周囲に気味悪がられた彼
女はやがて妖怪達に八つ
当たりを初める。
その強力な妖力でイビり
負かした妖怪に、子分に
なるよう証としてその名
を紙に書かせ集めた。
持つ者に名を呼ばれれば
決して逆らえぬ契約書の
束…「友人帳」
彼が祖母の遺品としてそ
れを受けて以来、友人帳
の力をねらう妖に襲われ
たり、名前の返還に応じ
たりと、せわしない日々
を送っていた彼だが、今
日は珍しく妖怪と会うこ
とすらない。
今日は平穏無事に過ごす
ことできそうだ。
そう思っていた。