エッセイ集

□読書ノート
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『孫子』を読む・第1部(2)


善者之戦,無奇勝,無智名,無勇功。
――善なる者の戦うや,奇勝無く,智名無く,勇功無し。(62頁)



孫子の中のもっとも好きな一節。
孫子は,最もよく戦う者の勝利はつまらない勝利であると言います。
なぜなら,最もよく戦う者は,戦う前に十分な情報収集をし,彼我の力量をわきまえた作戦を立てるなど確実に勝利するため入念な準備をした上で,戦うことから,傍目には勝利が当然にもたらされたように見えてしまう。
そこには,奇を衒った戦術や,思いもよらぬ戦術による勝利や,彼我の圧倒的な力量の差を乗り越えるような奮闘による勝利はまったくありません。
したがって,そのもたらす勝利はつまらない。
自分自身の仕事のあり方もそうしたいものです。

ただ,給与生活者としては,仕事の成果をうまく上司にアピールする必要もあるのでつらいのですが。



雑於害,故憂患可解。
――害に雑(まじ)うれば,故ち憂患解く可し。(142頁)



孫子は,多角的に事態をみるように言います。
というのは,的確な状況認識のため,楽観は禁物ですが,とはいえ,悲観的になりすぎてもうまくはいかず,中庸をとる必要があるからです。
本節は,「害の一面のみ目を奪われると,あれこれ心配ばかりが先に立ち,結局は一歩も前進せぬ消極的対応しか取れなくなる。」というものです(143頁)。
この言葉も,仕事のチームが悲観的になったときに,発してみると,もっともらしく聞こえる感じがします。



次の2節は,マキャベリを想像させる言葉で,余り人前で言うのははばかられそうです。
密談向きの言葉でしょうか。



故に将に五危有り。必死は殺され,必生は虜にされ,忿速は侮られ,潔廉は辱しめられ,愛民は煩わさる。
――故将有五危。必死可殺,必勝可虜,忿速可侮,潔廉可辱,愛民可煩。(146頁)

「将軍には,五つの危険がつきまとう。思慮に欠け決死の勇気だけなのは殺され,勇気に欠け生き延びるしか頭にないのは捕虜にされ,怒りっぽく短気なのは侮蔑されて計略に引っかかり,名誉を重んじ清廉潔白なのは侮辱されて罠に陥り,人情深く兵士をいたわるのは兵士の世話に苦労が絶えない。」。(146頁)



故可興之倶死。厚而不能使,愛而不能令,乱而不能治,譬若驕子,不可用也。
――卒を視ること愛子の如し。故に之れと倶(とも)に死す可し。厚くするも使うこと能わず,愛するも令すること能わず,乱るるも治むること能わざるは,譬うれば驕子(きょうし)の若(ごと)くにして,用う可からざるなり。(190〜191頁)



孫子は,兵士は,自らの子供のように接すべきだと語ります。
とはいえ,甘やかしてばかりいると,やはり,子供と同じで,言うことを聞かず,制御が利かなくなって,使い物にならなくなってしまうと言うのです。
本当に人を使うのは難しい。
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