エッセイ集

□読書ノート
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中山研一「『妨害型』危険運転致死傷罪の判例の検討」を読む(判例時報2041号3頁以下):補論



中山研一先生は、「中山研一の刑法学ブログ」というブログをお持ちです。

久しぶりに拝見したところ、先日、取り挙げた先生も、弁護人をされている危険運転致傷事犯の控訴審の話が出ていたので、目を通しました。

ブログの表題は「裁判所の冷たい態度」とのもので、それからもどんな展開になったのかは、容易に想像が付くところです。

控訴審の第1回弁論は、管理者が「日誌」の記事を書く前の

平成21年7月18日

であったそうで

控訴審における審理の内容に関して、弁護側から、新たな弾劾証拠(論告を支えた「目撃証言」と矛盾する同乗者の供述証拠)の採用、および被害原付きが道路縁石に衝突した事故状況に関する新たな「鑑定」の実施等が提案した

そうですが、裁判所は、却下し、即時結審したとのことだそうです。

それに対して、先生は

無罪とすべき合理的な疑いが残る否認事件で、控訴審がこのような形式的で事務的な対応を当然の如く行ったことに、はじめての経験である私自身は、率直に驚きと怒りを感じました

と力説されるのですが、弁護人という当事者の立場に由来する我田引水的な嘆きで、一応は、利害関係を離れて第三者的に考える(ということに世間的にはなっており、研究者自身もそのように言っているのですけれども)研究者であることが本籍であるはずの先生の立場からすると少し違和感を覚えました。

裁判員裁判や裁判の迅速化との関係もあり、近時、高等裁判所は、現審段階で取り調べることが可能であった証拠の採用については極めて消極的になっており(というか、それが刑事訴訟法における控訴審の審理の本来的なあり方なわけですが、刑事裁判においては、当事者に請求権限がない証拠でも、広汎に裁判所が職権で採用することが可能であるため、裁判所が、裁量的に証拠として認めていたのです)、殊に、本件は危険運転致傷事件という裁判員裁判対象事件であって、施行前であるものの、原審では、公判前整理手続が実施されていたものと思われ、公判前整理手続の終結による証拠提出制限もかかるのです。大体、目撃者の供述に反する同乗者の供述が、捜査段階の供述調書であれば、原審の公判前整理手続における証拠開示(先生ご主張のとおりであれば、類型証拠の5号又は6号該当)がされているはずであって、証拠提出は十分に可能であるはずで、控訴審で通るはずがありません。
また、「縁石云々」についても、この点が、危険運転致傷罪の成否に関し、重大な事実に当たるとの先生の主張も、危険運転行為と最終的な傷害結果発生との間に刑法上の因果関係があればよいのですから、先生の独自の見解であるように思われます。

自分自身の見解を批判的に見る視点もないまま、わがままな主張が通らないことについて、「冷たい態度」と言われても今一説得力がありません。
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