法律

□民法総則
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《失踪宣告》I(2)

第2 失踪宣告の取消し(注釈391以下)

1 概要

失踪宣告の取消しは,失踪者が生存するか,死亡したとみなされる時と異なった時に死亡したことの証明がある場合に,本人または利害関係人の請求により家庭裁判所が審判をもって行い,取消しの効果としては,失踪宣告が初めからなされなかったことになる,すなわち,のが原則である。

 2 財産の返還義務

(1)原則

相続等によりいったん移動した財貨はすべて返還される。

(2)32条2項の現存利益の返還をするにとどまる利得者は,善意の利得者に限られるか?

条文の文言上は,善意・悪意の区別はないが,悪意者は,全部の返還義務を負う(利息も付して返還する。内田T99)とするのが,通説である(教材51,我妻T112,加藤T102。四宮72は,画一的決済の要請等を理由として反対。)

結局,一般の不当利得(703条,704条)と同じ処理をすることになる(内田T99は,32条2項をして無意味な規定という)。

※現存利益=生活費に出費した場合は,いずれにしろ生活費は出費せざるを得ないので,全額返還を要するが,贅沢に全額費消した場合は,返還を要しない。

なお,利得した資産を運用し,資産を増加させた場合は,宣告によって得た財産分だけ返還すればよい(我妻T112)。

(3)善意でした財産的法律行為の効力

ア 32条1項後段は,誰の善意を要求するか?

 A=不動産を有する失踪宣告を受けた者
 B=相続人
 C=買 主
 D=転得者D

がいるとすると,善意の関係者が保護されるべきであるときは,Aは,Bから代金を取り戻すことにより満足することとなる(加藤T102)。

しかし,32条1項後段は,誰の善意を要求するのか明らかではないことから,対立がある。

T 契約当事者双方の善意が必要であるとする説(大審院昭和13年2月7日判決・大審院民事判例集59ページ)
※前記大判は,B悪意,C善意,D悪意のCを「善意のわら人形」として介在させた事案につき,Dが,U説を主張するとともに後記イの問題について,絶対的構成を主張した事案である。
※(Dがいないとして)Bが悪意であれば,Cが善意であっても保護されない。
※関係者の全員が善意である必要はない。Bが悪意でも,C及びDが善意であれば,善意のDは保護される。

U 契約の一方当事者のみが善意であればよいとする説(教材52は,最近では,こちらの見解が有力であるとする)
※@前記大審院判例は,特異な事案の処理に関するものであり(加藤T102),AU説の方が,背信的悪意者からの転得者について,相対的構成をとる(最高裁判所平成8年10月29日第三小法廷判決・民集50巻9号2506ページ(百選T57事件))ことと整合的である。

イ 32条1項後段により保護されるべき善意者が現れた後,悪意の転得者が現れたときはいかに処理するか?

T 絶対的構成説(多数説)
※B善意,C善意,D悪意の場合,U説に立って,Aが返還を求めうるとすると,Dは,Cに対し,追奪担保責任(561条,562条)を問うことができることになり,善意のCの保護に反する上,派生的に抵当権等の設定を受けた者との関係が複雑になるとする(石田90,四宮72)。

U 相対的構成説

(4)32条1項後段が身分行為に適用されるか?

残留配偶者が再婚(新婚姻)した後,失踪宣告の取消しにより復活した旧婚姻との関係が問題となる。
※加藤T106は,学説はかなり錯綜しているとする。

T 適用説(多数説)
※32条1項後段は,「行為」とのみ規定し,「身分行為」を排除していない(加藤T106参照)。

パターンA:双方善意の場合
※双方当事者善意の場合は,新婚姻は,効力が変わることなく,有効であるが,旧婚姻の取扱いについて複数の見解が存在する。 

T−A@ 旧婚は復活しないとする説(我妻T111,注釈396,教材52は,これが通説であるとする。昭和25年2月21日民甲520号民事局長回答)
※この場合でも,失踪配偶者は,失踪当時の氏に復する(昭和24年9月20日,21日山形法務局管内29回戸籍事務協議会決議)。

T―AA 旧婚は復活するとする説(加藤T107参照)
※重婚状態が発生し,それは旧婚姻にとっては,離婚原因(770条1項5号),新婚姻にとっては取消し原因になる。

パターンB:双方・一方悪意の場合(注釈397参照)
※この場合,旧婚姻が,復活することとなる。

T―B@ 新婚姻は有効なままであるとする説(我妻T111,教材52は,これが通説だとする。)
※この見解によると,新婚姻は重婚となり取り消されうることとなる。
※旧婚姻については,T−AAと同様離婚原因があることになるが,悪意の残存配偶者からの離婚請求が認められるか否かに疑問が生じうる点(加藤T107)で,双方善意の場合との相違がある。
T−BA 新婚姻は無効となるとする説

U 不適用説
※新婚姻は,善悪問わず,重婚となり,旧婚姻は,離婚原因があることになる。 
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