法律
□民法総則
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錯誤(2)
2 動機の錯誤
(1)狭義の動機錯誤
以下2つの処理のパターンがあり、この錯誤を特別な取扱いにしない見解が多い。
T 下記属性に関する錯誤と同一の処理をする(教材100,加藤T252参照)。
U 法律行為の効力に影響なし(四宮175)。
@自己領域の出来事にすぎず,Aこの錯誤まで認めると取引行為の定型化の要請に反することになるからである。
(2)属性に関する錯誤
T 伝統的理論=否定
∵効果意思について錯誤はない
U 判例
=原則として伝統理論に従うが,当事者が動機に属する事由を明示的または黙示的に意思表示の内容としているときには,錯誤が認められ,意思表示は,無効となる。
表示された動機は,意思表示の内容となるからである(我妻T175)。
(錯誤肯定例)
・大審院大正3年12月15日判決・民録20巻1101ページ(建物の価格の錯誤)
・大審院大正6年2月24日判決・民録23巻284ページ(受胎馬錯誤事件。馬の売買につき,その年齢,受胎能力に錯誤があった場合)
・最高裁判所平成元年9月14日判決・家月41巻11号75ページ(動機が黙示的に表示されているときでも,それが法律行為の内容になることを妨げない)
(錯誤否定例)
・大審院明治38年12月19日判決・民録11巻1786ページ(契約をするに至った縁由に錯誤があっても,縁由の実在を要件としない限りは無効とはならないとした。)
・最高裁判所昭和29年11月26日判決・民集8巻2087ページ(家屋の買主が現に居住している第三者と同居し得ると誤認していた事例について,動機の表示がないことから,錯誤と認めなかった)
V 錯誤一元論
動機の錯誤も錯誤であり,表示行為の錯誤と区別する必要はない。
(理由)
@表示に対する真意を欠く点では同じ
A錯誤の大多数は動機の錯誤
B錯誤はその性質上「表示」する事を求め得ない
※この見解には,取引の安全の保護との関係で問題が生ずる。
そこで,この見解は,取引の安全との調和は@「要素」の解釈とA要件として,相手方の故意過失を求めることにより図るとする。
3 表示行為の錯誤
※基本的に錯誤になることに問題ない(加藤T251〜252)。
(1)内容の錯誤
→錯誤により無効
※なお,要素の錯誤が認められるか否かが問となる(加藤T252)。
(2)表示上の錯誤
ア 表意者自身が表示を誤る場合
→錯誤により無効
イ 表示仲介者が表示を誤る場合
(ア)表示機関が表示を誤る場合(使者に口上を伝えさせ,電報局から電報を出したところ,内容を誤った場合)
→本人の意思と表示機関の表示とに不一致があるから,95条の「錯誤」の一種として取り扱われる。
※判例は,表示機関が故意に表示を誤った場合も,錯誤となるとする(大審院昭和9年5月4日判決・民集13巻633ページ)。表見代理の適用をすべきとの反対説がある(四宮177)。
(イ)伝達機関が表示を誤る場合(使者に手紙を届けさせたところ,届先を誤った場合)
→意思表示の不到達を来たし(97条1項「隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達したときから,その効力を生ずる。」),法律行為の有効な成立は妨げられる。