法律

□民法総則
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《通謀虚偽表示》(5)

ウ 非対応型

外形他人作出型で,かつ,外形に対する権利者の承認がない場合であっても,帰責事由があれば,第三者が善意無過失であれば保護される。

権利外観法理では,一般に信頼保護によって不利益を受ける者の帰責事由と第三者の外観に対する信頼とが要求され,この両要因の相関関係によって,第三者の保護が決せられるところ,ア,イの場合には,権利者の帰責事由が大きいので,第三者の信頼が無過失に基づく必要はないが,ウの場合には,第三者の信頼した外形が権利者の意思を逸脱しているところから,第三者の過失の有無をも考慮にいれることによって,権利者の利益を図る必要があるためと解される(四宮171)。

(ア)最高裁判所昭和43年10月17日判決・民集22巻10号2188ページ

Bの信用を外観上増大させる目的で,Aの不動産についてBに仮登記を与えたところ,BがAの印鑑を無断使用して,本登記に改め,Cに処分した場合,94条2項・110条の法意に照らし,外観尊重および取引保護の要請に応ずるゆえんであることを根拠として,善意・無過失の第三者は保護されるとした。

(イ)最高裁判所昭和45年6月2日判決・民集24巻465ページ

AのためにBが融資を受ける便宜上A所有の不動産をB名義に仮装売買したところ,BがさらにCに融資の斡旋を依頼して,登記用紙を預け,Cがこの書類を利用して自分名義に登記を移してDに売却した場合,94条2項・110条の法意に照らし,外観尊重および取引保護の要請に応ずるゆえんであることを根拠として,善意・無過失のDを保護しようとした。

(ウ)最高裁判所昭和47年11月28日民集26巻9号1715ページ

Aが自己名義の不動産につき,Bに仮想の仮登記をするつもりで,Bが提示した本登記請求書類を誤認して署名押印し,Bがそれを用いて本登記を経由してCに譲渡した場合について,94条2項,110条の法意,並びに取引保護の要請を根拠に,善意・無過失の第三者は保護されるとした。

(エ)最高裁判所平成18年2月23日判決・民集60巻2号546ページ(百選T22事件)

Aが,自己名義の不動産の賃貸をBに委ねていたところ,Bから言われるままに,@登記済証及び印鑑証明書を交付し,A売却する意思がないのに,AからBへ本件不動産を売り渡す旨の売買契約書に署名押印し,BBがAから依頼された別の不動産に関する登記手続に必要だと言われ,Bに実印を渡し,面前で,Bが本件不動産の所有権移転登記申請書に押印するのを漫然と見,その後,Bが,AからBへの所有権移転登記を申請し,さらに,Bは,本件不動産をCへ売却し,その移転登記を了した事案について,「本件登記手続をすることができたのは,上記のようなAの余りにも不注意な行為によるものであり,Bによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについてのAの帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重いものというべきである。そして,(中略)Cは,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,Xは,Aが本件不動産の所有権を取得していないことをYに対し主張することができない」とした。 

エ 消極的外観信頼の保護

(ア)最高裁判所昭和45年11月19日判決・民集24巻1916ページ

AからBへの所有権移転があり,権利取得者は所有権保全のため仮登記をしたつもりだったのに,そして,一応,仮登記もされたが,所有権移転請求権保全の仮登記及び抵当権設定登記との担保設定がなされたかのような外形が作出された事案に関し,真実の権利者であるBは,その外形を過失なく信頼してAからの所有権を譲り受けたCに対し,自分が仮登記を経由した所有権者であり,この外形に対応する権利者(単なる担保権者)でない,と主張することはできないとした。

※この事案では,虚偽の外観作出の原因が,Aの依頼・指示に基づいて司法書士が行為したことによるものであって,Cと利害対立するBの帰責要素が小さいことにより,Cに無過失が要求されているものされる(四宮172)。
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