法律

□労働法雑記帳
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【労災保険の第三者行為災害における求償】

1 労災保険とは

労災保険とは,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする制度である(労災保険法1条)。
なお,労災保険は,政府が管掌することとされている(労災保険法2条)。

2 通勤災害と保険給付

(1) 労災保険法1条は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行うことを規定しているところ,この「保険給付」には,労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付が含まれる(同法7条1項2号)。
従来,通勤災害は,労災補償制度以外の諸制度によってカバーされていたが,これらの諸制度は,被災労働者にとって,少なくとも業務災害の補償に比して給付の水準をはじめとして種々問題があったこと,また,通勤が労務の提供に必然的に随伴するものであることから,通勤災害についても,より手厚い保護を望む声が強くなり,昭和48年の労災保険法の改正によって,通勤災害が労災保険の保護の対象に加えられた(厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課編著「七訂新版労働者災害補償保険法」(以下「七訂新版労災保険法」という。)52及び53ページ)。
なお,通勤災害にいう通勤とは,労働者が,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復することをいい,業務の性質を有するものを除くものである(同法7条2項)。

(2) 労災保険法21条は,通勤災害に関する保険給付の種類として,療養給付,休業給付,障害給付,遺族給付,葬祭給付,傷病年金及び介護給付の7種類の給付を規定している。
いずれも業務災害に関する保険給付に対応して定められている(同法12条の8第1項参照)が,労働基準法(以下「労基法」という。)の災害補償責任を基礎とするものではないため,その給付の名称中には「補償」という文字が使われていない(七訂新版労災保険法459ページ)。

3 第三者行為災害の場合

(1) 労災保険は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害又は死亡に対して必要な保険給付等を行うことを目的としているが,その保険給付の原因となった業務災害又は通勤災害が保険関係外にいる者(以下「第三者」という。),すなわち,保険者である政府,保険加入者である事業主及び保険給付を受けるべき者である被災労働者又はその遺族以外の者の加害行為等によって発生する場合があり,保険給付の原因となった災害が第三者の行為等によって発生した場合を,労災保険においては特に「第三者行為災害」と称している。
第三者行為災害は,一般に災害の発生について,「第三者」の行為が介在するため,第一当事者等は,労災保険に対する保険給付請求権を取得すると同時に,第三者に対しても不法行為又は債務不履行等による損害賠償請求権を取得することとなる。
このため,労災保険法12条の4において,保険給付と民事損害賠償との調整について定め,第三者行為災害について,先に政府が保険給付をしたときは,政府は,保険給付を受けた者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を保険給付の価額の限度で取得し(同条1項),また,受給権者が第三者から先に損害賠償を受けたときは,政府は,その価額の限度で保険給付をしないことができるとされている(同条第2項)。
ただし,第三者行為災害において,休業特別支給金が支給された場合,特別支給金には,労災保険法12条の4の適用はなく,また,規則に同様の規定はない(最高裁判所判例解説民事篇平成8年度(上)93ページ)から,政府は,その支給分について,第三者に対し,求償することはできないと解されている(交通事故紛争処理研究会「問答式交通事故紛争処理の実務(第2巻)」1344の13ページ)。また,特別支給金は社会復帰促進等事業の一環として被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉を増進させるためのもので,損害填補の性質を有するものではないから,労働災害による損害の賠償に関し損害額から控除することは許されない(最高裁平成8年2月23日第二小法廷判決・民集50巻2号249ページ)。

(2) 上記(1)のとおり,政府は,第三者行為災害について保険給付をした場合,労災保険法12条の4第1項により,保険給付を受けた者が,当該第三者に対して有する損害賠償請求権を取得するが,この求償の対象については,被災労働者が第三者に対して請求できる損害賠償のうち,保険給付と「同一の事由」(同条第2項参照)に基づくものかどうかが問題となる。
そして,労災保険の各給付項目と民事上の損害賠償中の財産的損害の各項目との関係については,療養(補償)給付が治療費と,休業(補償)給付が休業損害と,障害(補償)給付が後遺障害による逸失利益と,遺族(補償)給付が死亡による逸失利益と,葬祭料が葬祭費と,傷病(補償)年金が傷病による休業の逸失利益(休業損害)とそれぞれ対応するものといえる(泉澤博「税金・各種保険給付と損益相殺」塩崎勤編『交通損害賠償の諸問題』548ページ,宮川博史「労災保険と民事賠償の調整」塩崎勤編『現代民事裁判の課題G』913ページ)。
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