法律

□租税法雑記帳
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【延滞税の消滅時効】

1 国税の徴収権の消滅時効について

国税の徴収権の消滅時効については,通則法72条1項が,「その国税の法定納期限(中略)から5年間行使しないことによって,時効により消滅する。」として,起算点と時効期間について定め,同法73条1項は,時効の中断につき,「次の各号に掲げる処分に係る部分の国税については,その処分の効力が生じた時に中断し,当該各号に掲げる期間を経過した時から更に進行する。」とした上で,1号ないし5号において,更正又は決定,加算税に係る賦課決定,納税に関する告知,督促及び交付要求の時効中断事由を定めている。 また,同法72条3項は,「国税の徴収権の時効については,この節に別段の定めがあるものを除き,民法の規定を準用する。」と定めており,時効の中断事由について定める民法147条も適用されることになる。

そして,通則法73条4項は,「国税の徴収権の時効は,延納,納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予に係る国税(当該部分の国税に併せて納付すべき延滞税及び利子税を含む。)につき,その延納又は猶予がされている期間内は,進行しない。」として時効の停止期間について定め,同条5項は,「国税(附帯税,過怠税及び国税の滞納処分費を除く。)についての国税の徴収権の時効が中断し,又は当該国税が納付されたときは,その中断し,又は納付された部分の国税に係る延滞税又は利子税についての国税の徴収権につき,その時効が中断する。」とし,延滞税及び利子税を成立させる基本的な請求権は,本税に従属する権利であるから,本税について時効が中断されたときは,その納付された本税に係る延滞税又は利子税についての時効も同時に中断されることになる旨規定されている。

2 延滞税の消滅時効の起算点

通則法72条1項は,「国税の徴収を目的とする権利(中略)は,その国税の法定納期限(中略)から5年間行使しないことによつて,時効により消滅する。」と規定する。 

そして,この「国税」には,当然,延滞税も含まれているところ,延滞税にあっては,これらの納税義務を成立させる基本的な請求権は本税に従属する権利であるから,いわゆる本税が存続する限り存続し,本税が時効により消滅したときには同時に消滅するものと考えられる。また,本税が法定納期限後に完納されることによって確定することとなる支分的な延滞税にあっては,本税の完納時にその数額が確定することから,その消滅時効の起算日はこの本税完納の日の翌日とすべきものとも考えられるが,しかし,この請求権も前記基本的な請求権のいわば支分的な権利であり,例えば,本税につき滞納処分による差押えを行う場合には,これらの額が未確定であっても,本税とともに差押債権の一部とされているところである。したがって,結局,これらの支分的な延滞税もその消滅時効の起算日は,本税のそれと等しく法定納期限と解される(DHCコンメンタール国税通則法3848ページ)。

このように解することは,「延滞税及び利子税は,本税が時効により消滅したときは,ともに消滅するものとする。本税の完納によって確定した延滞税及び利子税については,その時効起算日は,本税の時効の起算日と同一とするが,その本税に係る申告又は納付は,延滞税及び利子税について時効中断の効力を有するものとする。」などと提言した昭和36年6月の「国税通則法の制定に関する答申の説明」における答申を受け,国税通則法72条以下の条文が制定された(DHCコンメンタール国税通則法3834ないし3835ページ)経緯にも合致する。

なお,延滞税の納税義務は,その基礎となる本税の納税義務とは別個独立のものであり,本税の納付の遅延に対応して一日ごとに成立・確定すると解されるから,その時効は,本税の法定納期限後,各一日分の税額ごとにその翌日から消滅時効期間が進行すると解する見解(いわゆる「日々確定説」)を採った裁判例もある(大阪高等裁判所昭和45年4月17日判決・訟務月報16巻6号665ページ)。

しかし,前記裁判例は,通則法が施行される昭和37年4月1日(なお,本法は審議が難航し,4月1日までに公布できなかった。そのため,2日公布でありながら,1日施行という変則の規定になったが,1日から適用と解される(有斐閣「六法全書T」865ページ)。)よりも前の事案についての裁判例であり,通則法が施行され,同法72条,73条が適用される本件とは前提を異にする。現行の通則法は,延滞税の法定納期限を本税の法定納期限と同一であるとし(通則法72条1項,2条8号ニ),本税についての時効中断または納付があったときに,その中断または納付の部分の本税に係る延滞税または利子税の徴収権の時効が中断する(同法73条)などと定め,延滞税を,徴収の面で,本税と一括して取り扱うものとして立法的に解決している。前記大阪高裁昭和45年4月17日判決を掲載した訟務月報16巻6号665ページの解説では,同判決につき,「従前の税務当局における取扱いは,この判旨と異なるものであつたが,この点は,すでに国税通則法の制定(昭和37・4・2法66)によつて,立法的に解決されているので,上告を控えて確定させることとした。」としている(なお,下村芳夫・徴収権の消滅時効・税大論叢7号219ないし220ページ参照)。そもそも,日々確定説のように解すると,たとえば,基本的な請求権である本税について消滅時効が完成した場合でも,最近5年間の延滞税は時効完成せず,それ以前の期間に対応する延滞税のみが時効消滅するという奇異なことになってしまう(DHCコンメンタール国税通則法・3848ページ)。

3 延滞税の時効の中断事由

通則法73条5項は,延滞税の時効中断について,「国税(附帯税,過怠税及び国税の滞納処分費を除く。)についての国税の徴収権の時効が中断し,又は当該国税が納付されたときは,その中断し,又は納付された部分の国税に係る延滞税(中略)についての国税の徴収権につき,その時効が中断する。」と規定する。

延滞税を成立させる基本的な請求権は,本税に従属する権利であるところから,本税が存続する限り存続し,本税が時効により消滅したときは同時に消滅するものと解されるからである(DHCコンメンタール国税通則法・3899ページ)。

したがって,ここに「その中断し,又は納付された部分の国税に係る延滞税又は利子税」とは,時効が中断された国税又は納付された国税につき併せて納付すべき延滞税又は利子税の全額をいう(通則法基本通達73条関係6)のであり,本税について,時効中断事由が生じた後,発生した延滞税についても,時効中断の効力が及ぶものと解される。

また,このように解することが,先に論じた通則法72条以下の条文が制定された経緯にも合致する。
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