法律

□諸法
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《国際運転免許証の有効要件》

問 タイ王国国籍を有し,本邦で外国人登録をして在住している被疑者が,本邦の再入国許可を受けた上で8日間タイ王国に帰国し,その間,タイ王国政府発行の国際運転免許証を取得して本邦に再入国し,普通乗用自動車を運転した。この場合,無免許運転罪は成立するか。



答 成立する。
 国際運転免許を所持する者の自動車の運転については,道路交通法107条の2が次のように

《道路交通に関する条約(以下「条約」という。)第24条第1項の運転免許証(第107条の7第1項の国外運転免許を除く。)で条約附款書9もしくは条約附款書10に定める様式に合致したもの(以下この条において「国際運転免許証」という。)又は自動車等の運転に関する外国(国際運転免許証を発給していない国であって、道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図る上で我が国と同等の水準にあると認められる運転免許の制度を有している国として政令で定めるものに限る。)の行政庁の免許に係る運転免許証(日本語による翻訳文で政令で定める者が作成したものが添付されているものに限る。以下この条において「外国運転免許証」という。)を所持する者(第88条第1項第2号から第4号までのいずれかに該当する者を除く。)は,第64条の規定にかかわらず,本邦に上陸(住民基本台帳法(昭和42年法律代第81号)基づき住民基本台帳に記録されている者が出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第60条第1項の規定による出国の確認を若しくは外国人登録法(昭和27年法律第125号)第4条第1項の登録を受けている者が出入国管理及び難民認定法第26条第1項の規定による再入国の許可若しくは同法61条の2の6第1項の規定による難民旅行証明書の交付を受けて出国し,当該出国の日から3月に満たない期間内に再び本邦に上陸した場合における当該上陸を除く。第117条の4第1号において同じ。)をした日から起算して1年間,当該国際運転免許証又は外国運転免許証(以下「国際運転免許証等」という。)で運転することができる。ただし,旅客自動車運送事業に係る旅客を運送する目的で,旅客自動車を運転し,若しくは牽引車自動車によって旅客自動車を牽引して当該牽引自動車を運転する場合,又は代行運転普通自動車を運転する場合は,この限りではない。》

と規定するからである。
……と言っても,意味がわからないだろう。
一応,この規定の中には

国際運転免許証を取得した場合でも,その取得の時期を含む日本国外にいる期間が3か月以上なければならない

という規定が読み込まれており,本件の被疑者は,8日間しか日本国外にいなかったから,その取得した国際運転免許証は有効なものとは認められず,無免許運転罪が成立することになる。
けれども,どうすれば,先の規定をそのように読めるのか。
足がかりになりそうな「3か月」の部分については

《……当該出国の日から3月に満たない期間内に再び本邦に上陸した場合における当該上陸を除く。……》

との部分がある。
しかし,この部分の後には

《……した日から起算して1年間,当該国際運転免許証又は外国運転免許証(以下「国際運転免許証等」という。)で運転することができる……》

などという規定があることから,何となく

「国際運転免許証の日本国内における有効期間は,1年間だが,その間,海外渡航している場合,3か月以内であれば,その期間は有効期間として計算されない」

などといったことが規定されているように読めないこともない。
しかし,先の部分が,「国外に3か月以上いなければ有効な国際運転免許証と認めない」ということの根拠となるのである。
この点,道路交通執務研究会編『執務資料道路交通法解説13訂版』1117頁は

《また,平13・6法改正により,住民基本台帳に記録されている者が出国の確認を,また外国人登録法の登録を受けている者が再入国の許可等を受けて出国し,当該出国の日から3月に満たない期間内に再び本邦に上陸した場合は、当該再上陸の日を国際運転免許証等で自動車等を運転することができる起算日としない規定の改正が行われた。
 これは,我が国に長期間滞在しているにもかかわらず,公安委員会の免許を受けず,上陸後1年が経過する前後に出国し,国際運転免許証等を再取得の上,再上陸するなど国際運転免許証制度を悪用する者が散見されることから,一定期間以上我が国に滞在しており,かつ,短期間で帰国する者のうち,住民基本台帳に記録されている者等が出国した場合に限って,運転可能期間を制限することとしたものである。》

と解説する。
どういうことか,先の107条の2から関連する部分の根幹部分を抜粋すると

《……国際運転免許証…を所持する者…は,…本邦に上陸…をした日から起算して1年間,当該国際運転免許証…で運転することができる。…》

という規定になる。
この規定自体から,有効期間は1年間であるということは容易に読み取れる。
さて,少し読みが必要なのは,その有効期間の起算点である。
国際運転免許証の有効期間の起算点は

本邦への上陸時点

であることも,この規定が明らかであるが,本邦への上陸の時点が起算点であるということは

本邦に上陸していなければ,有効な国際運転免許証と認められない

ことを意味する。
そして,107条の2は,その括弧書きの中で

《……当該出国の日から3月に満たない期間内に再び本邦に上陸した場合における当該上陸を除く。……》

と規定している趣旨は

出国から再入国までの期間が3か月未満であるときには,国際運転免許証の有効要件であるところの「上陸」要件が欠ける

ということなのである。
したがって,海外で国際運転免許証を取得したとしても,その取得に係る海外渡航期間が3か月に満たないときには,有効な国際運転免許証とは認められないということになるのである。

久しぶりに,技巧的な論理解釈に触れることができた。
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