法律

□諸法
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『大麻取締法とその合憲性』(1)



 主として,第3条,第24条の2(所持の禁止)について,合憲性が争われる場合があるが,判例は,一致して合憲性を認めており,実務上の問題は解決済みである。



《基礎知識》



【大麻の意義】(以下主として,植村立郎「大麻取締法」平野龍一他編『注解特別刑法5−U医事・薬事編』(2)(以下「植村」という。)11頁〜12頁,藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書8薬物犯罪』(以下「薬物犯罪」という。)13頁による)



 大麻取締法が規制対象としている大麻は,大麻草(カンナビス・サティバ・エル…学名)及びその製品をいい,大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く),大麻草の種子及びその製品は除かれる(1条)。
 大麻草は,くわ科の植物で雌雄異株の1年生草木であり,高さは2,3メートルに達し,茎は緑色で浅い縦溝を有し,直立する。葉は3枚から9枚の小葉が集まって掌状を,各小葉は狭披針形で先端が尖り辺縁は鋸葉状をなし,小葉には多くの手と腺毛がある。大麻草は生育地によって繊維原料としての有用性,麻酔性に著しい差があるため,かつてはそれぞれ異なった種とされたが,その後,生育値の気候・風土に順応して差異が生じた生理的変種であることが判明し,大麻草は一属一種とされるのが通説である(最判昭和57年9月17日刑集36巻8号764頁)。



【大麻の一属一種性】(植村15頁)



 大麻草は,現在の植物学上では,一属一種であるとするのが通説である。
 これに対し,植物学界の少数説に依拠し,カンナビス属には,カンナビス・サティバ・エルのほかにも,カンナビス・インディカ・ラム,カンナビス・ルーディラス・ジャニといった種があるとの主張がなされることがある。
 しかし,カンナビズ属は(A)完全に交配可能で生殖上の孤立性が認められないこと,(B)形態上の変異に実質的不連続性がないこと,(C)生活領域も重複していることから,裁判例上は,一属一種性が肯認されている。
また,前記少数説を主張する意図は,大麻取締法がカンナビス属に複数の種があることを前提にサティバ・エル種のみを選別して規制の対象とし,その余の種を規制の対象から除外する趣旨であると主張する点にある。しかしながら,本法は,カンナビス属が一属一種であるとの植物学界の通説的見解を前提にカンナビス属に属する植物をすべて大麻として規制する趣旨であり,本法の大麻の定義もその趣旨からなされたものであって,前記のような主張は成り立たない。
 なお,最高裁決定昭和57年9月17日刑集36巻8号764頁は,植物分類学上の見地には明示的に言及せず,「大麻取締法の立法の経緯,趣旨,目的等によれば,大麻取締法1条にいう大麻草とは,カンナビス属に属する植物すべてを含む趣旨である」旨判示している。



【大麻の薬理作用】



▽総説(薬物犯罪13頁,植村82頁〜84頁)



 大麻は,その成分中のテトラヒドロカンナノビール(THC)が中枢神経に作用し,著しい向精神作用を示す。
 一時に多量に摂取したことによる急性中毒の症状としては,目の結膜の充血,嘔吐,口渇,鼻孔粘膜の渇き,呼吸数の減少,血圧の変化,蝕・聴・味・嗅覚の亢進が見られ,精神的には陶然となり,多幸感をもたらす反面,衝動的で興奮状態になり,感情の不安定から暴力的な行動を取ることがある。
 さらに妄想,幻覚が発現し,恐怖状態に陥る者もあり,特に大量の摂取では,幻視,幻聴,偏執,妄想,錯乱状態となり,意識障害から精神病様の状態に陥ることもある。
 時折,耐性は多量の使用者に認められたという報告もあるなどとも言われるが,確かなものではないとされている。
 身体的依存性はないとされるが,ある程度の禁断症状と思われる報告例もある。
 精神的依存性についても,連用者,比較的多用者にみられるとされている。
 慢性中毒では,急性中毒の症状にも加え,呼吸器の障害,頭痛,睡眠障害等がみられ,精神症状としては,集中力,記憶力の低下,無気力,作業能力の減退,錯乱状態に陥るなどのほか,種々の精神異常状態がみられる。



▽有害性に関する消極論の検討(主として植村83頁ないし84頁)



 大麻の有害性に関する議論に関しては,大抵の薬物は大量に摂取すれば何らかの毒性が現れ,ごく少量を摂取すれば毒性が現れないものであるから,大麻解禁の前提としての有害性は大麻を好きなだけ摂取したときにどのような毒性が現れるかである(岸田修一『時の法令』993号15頁以下)。
 しかし,多量,強力な大麻を長期間摂取した場合のデータは不足している(なお,厳密に正確なデータを取得するには人体実験が必要であろうが,その妥当性自体問題となろう【管理者】)。その上,いったん薬物の使用を許容してその乱用が蔓延した後,その有害性が肯定されても,もはやこれを禁止することは著しく困難となることを思えば,大麻の解禁があるとすれば,今後の調査・研究の推進とそれに基づく慎重な検討を経たうえで肯定される場合に限られるといえる。
 しかも,現在の資料によっても大麻の有害性は認められる。
 たとえば,アメリカ合衆国保健教育福祉長官による連邦議会に対する第八次年報(『警察学論集33巻10号』)によれば,以下の有害性が認められるとされる。
(A)急性の効果
 即座に記憶することや幅広い知的作業をする妨げとなり,自動車運転技能の障害となって異常運転の重要な原因となること
(B)長期的効果
 肺の防御機能が損なわれること
 生殖機能が損なわれるおそれがあること
(C)精神病理学上の影響
 大麻未経験者,多量吸引者,薬物による情緒障害の経験者に対し急性不安反応を惹起し,精神過程のもうろう化,見当識喪失,錯乱,顕著な記憶障害などの特徴を含む急性脳症候群を生じさせ,部分的に軽快していた統合失調症患者の症状を悪化させる場合があることなど
 以上のような効果からすると,国民の保健衛生を保全するために予防的見地から大麻に対する規制を行っている本法には十分な根拠がある。
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