法律

□民事訴訟法雑記帳
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《当事者確定の効果》
問 当事者の確定は何のために必要なのか。



答 確定は,以下の4つの場面で必要である。
(A)訴訟手続における行為主体の特定
 ※以下の3つは,例外的にのみ必要
(B)氏名冒用訴訟における判決効の主観的範囲
(C)訴状において表示された当事者が係属前発生前に死亡しているときの当事者の地位
(D)表示の訂正と任意的当事者変更の前提



《当事者確定の基準》
問 当事者確定のための基準としてはどのような見解があるか。



答 以下のような見解がある。
[T]意思説
 原告の意思に基づいて当事者を決める。
(批判)
 ・原告の確定に役立たない。
 ・原告の意思の認定の資料が明らかでない。
[U]行動説
 当事者として行動している者が当事者である。
(批判)
 ・当事者としての行動が一義的に明確ではない。
[V](形式的)表示説
 訴状における当事者欄の表示を基準に当事者を決める。
[W](実質的)表示説
 訴状における当事者欄のほか請求の趣旨・原因をも考慮して当事者を決める。
[X]規範分類説
 手続進行面では表示説を採り,既に行われた訴訟行為の評価をする場合には堂々説などを採用する。
※[V][W]の表示説が通説である。
(A)裁判所にとっては,当初,訴状しかないのであるから,それに従って送達等の手続を勧めざるを得ない。
(B)(形式的)表示説をとった場合の不利益は,(実質的)表示説で解消可能である。
【3/5加入】
(C)民事訴訟法132条2項は,訴状自体によって当事者が特定されることを要求している(伊藤〔3版3訂版〕90頁)
※民事訴訟法132条2項
 訴状には,次に掲げる事項を記載しなければならない。
 一 当事者及び法定代理人
 二 請求の趣旨及び原因



《訴訟手続における行為主体としての当事者の確定》
問 訴訟手続における行為主体として当事者の確定はいかなる基準によるべきか。



答 表示説に従い,訴状の記載に従って当事者を確定すべきである。
 職権進行主義の下では,裁判所が訴訟の進行について責任を負うところ,裁判所としては,訴状を受理した以上,それを被告に送達して訴訟係属を開始し,訴訟を進行させなければならないが,その際には,当事者欄をはじめとする訴状の記載を基準に判断せざるを得ないからである。



《氏名冒用訴訟》
問 原告甲が乙の名を冒用して訴訟を追行し,逆に,訴状では被告は丙とされているにもかかわらず,丁が訴訟を追行する場合にはどのように取り扱うべきか。



答 訴訟係属中に裁判所が氏名冒用の事実が発見されたときは,表示説に従って当事者を確定した上,裁判所は以下のような取扱をする。
・原告側の氏名冒用
 訴えを不適法として却下。
・被告側の氏名冒用
 冒用者に訴訟行為をなすことを認めず,被冒用者に訴訟追行を行わせる。
 ※なお,被冒用者が冒用者の訴訟行為を追認することはあり得る。
 追認によって冒用者の訴訟行為は被冒用者について効果を生じる。



問 冒用の事実が発見されないまま判決がなされた場合の取扱い。



答 表示説に立ち,判決の効力は被冒用者に及び,被冒用者は,上訴(312条2項4号),再審(338条1項3号)でその救済を求めることになる。
 この点,行動説を前提とすれば,判決効は,冒用者に及び,被冒用者には及ばず,判決が確定していても被冒用者はその無効を主張しうる点で利点があるとの表示説に対する批判もある。
 しかし
(A)現に被冒用者名義の判決が存在する以上,上訴・再審によらせる方が法的安定性に資する。
(B)行動説をとった場合でも,判決の無効を主張するためには,結局,氏名冒用の事実を立証せざるを得ず,再審によらせるのと大差はない。
(C)行動説では,被冒用者による上訴や再審申立が不適法となる。
との理由から,表示説に立ち,前記の処理をする方が望ましい。



《死者を当事者とする訴訟》
問 当事者が訴訟係属発生後死亡した場合,通常どのような手続が取られるか。



答 訴訟中断の効果が生じ,受継の手続が取られる。



問 訴訟係属前,被告への訴状送達前に原告又は被告として表示された者が死亡し,にもかかわらず,訴状が別の者(死者の相続人)によって受領され,外観上訴訟係属が発生し,訴訟手続きが進められ(「死者の相続人が死者の名」で,又は「受継した上で自己の名」で訴訟行為を行ってしまった場合はどのように取り扱うべきか。



答 いわゆる「死者を当事者とする訴訟」の問題であり,当事者の確定と関連して問題となる。
 この点,表示説を徹底すれば,訴訟係属が生じる余地が無く,訴訟行為がなされたとしても,当事者不存在として訴えが却下され,出された判決は無効となる。
 しかし,実質的に相続人が当事者として訴訟を行っているのに,その結果が反映されないのは不合理である。
 したがって,表示説に立った上で,次のように処理すべきである。
[A]実質的表示説に立ち,当事者欄の記載だけではなく,請求原因の記載などを考慮して,相続人を当事者とする趣旨が合理的に推認される場合には,相続人が当事者とされているものとして
(a)死者から相続人への表示の訂正を認める。
(b)相続人の行為は受継の有無にかかわらず,有効なものとして取り扱う。
(c)表示の訂正がなされないまま死者を名宛人とする判決が確定した場合,判決の更正を認める。
[B]実質的表示説に立った場合でも,相続人を当事者とする趣旨が合理的に推認されない場合
→この場合でも,相続人が死者に代わって訴訟行為を行っていたときは,訴訟係属後の死亡に準じて,訴訟承継を前提とする目次の受継がなされたものとみなして,判決の効力が相続人に及ぶと解すべきである。

問 訴状に記載された当事者が訴状の送達時において死亡しており,その相続人が受継の手続を行って,訴訟手続を遂行した場合に,当該相続人が,自らの訴訟行為の無効を主張することはできるか。



答 できない。
 信義則上,このような主張は許されないとするのが判例である(最高裁判所判決昭和41年7月14日民集20巻6号1173頁)。



《表示の訂正》
問 訴状において当事者をAと表示していたにもかかわらず,訴訟係属中にその表示をBに変更しようとする場合,当事者にはどのような方法が考えられるか。



答 以下の2つの方法が考えられる。
[A]表示の訂正
A及びBの表示が同一人格を表しているものとして,その同一性を前提に,AからBへ表示の訂正を申し立てる方法
[B]任意的当事者変更
 A及びBの表示が別人格を表しているものとして,当事者の変更を申し立てる方法



問 表示の訂正及び任意的当事者変更のそれぞれの適法性について説明せよ。



答 以下のように考えられる。
[A]表示の訂正
 一般的に適法と考えられる。
(理由)
 当事者間の訴訟係属及び訴訟法律関係に何らの影響も与えず,それを前提とした当事者の表示のみを変更するに過ぎないから。
[B]任意的当事者変更
 適法性が問題とされる。
(理由)
1)従来の当事者とは別の者との間の者との管の訴訟係属の発生及び訴訟法律関係の成立という新たな法律効果を伴う。
2)新当事者の手続保障の観点からも問題がある。



問 裁判所は,ある当事者が自己又は相手方の氏名又は法人名の変更を申立て来たときにはどのようなことに留意すべきか。



答 それが表示の訂正に属するのか,任意的当事者変更に属するのかを区別する必要がある。
 その上で
新旧両当事者の同一性が
[A]ある→表示の訂正を許す。
[B]なし→任意的当事者変更の要件を検討する。



問 (実質的)表示説に立った場合の当事者の同一性の基準を説明せよ。



答 訴状の当事者欄のほか,請求の趣旨及び原因を資料として原告及び被告を確定し,そこから同一性を判断する。



問 手形金請求訴訟について,被告を自然人の個人としていたところ,手形上の債務者がその個人が代表をしている法人であるとき,被告を当該個人から法人へと変更することは,表示の変更か,任意的当事者変更か。



答 表示の変更である。
 この種の事案について,代表者個人から法人への表示の訂正を許した裁判例がある(大阪地判昭和29年6月26日下民5巻6号949頁,東京地判昭和31年3月8日下民7巻3号559頁)。



問 通称又は別名から本名へ変更することは表示の変更か当事者の変更か。



答 表示の変更として許される(名古屋高判昭和50年11月26日判時812号72頁)。



問 法人格否認の法理が適用されるときに,法人から特定の個人への変更は,表示の変更か,任意的当事者変更か。



答 表示の変更として許されることもありうる(伊藤〔3版3訂版〕


《任意的当事者変更》
問 当事者の変更にはどのような種類があるか。



答 以下のような種類がある。
[A]法律の規定に基づくもの=訴訟承継
[B]特別の規定が無く,当事者の意思に基づくもの=任意的当事者変更



問 任意的当事者変更を法律構成上143条に基づく訴えの変更とみることはできるか。



答 消極。
 新たな当事者との間の訴訟係属の発生を目的とする訴訟行為だから。



問 任意的当事者変更は,法律構成上どのように正当化しうるか。



答 以下のような見解がある。
[T]新訴提起・旧訴取下げ説(通説。名古屋地裁豊橋支部判決昭和49年8月13日判時777号80頁)
 新当事者による,または新当事者に対する新訴の提起と,旧当事者による,または旧当事者に対する訴えの取下げという二つの訴訟行為が複合されたものと構成する説。
 理論的には,提起された新訴が裁判所によって旧訴と併合され,その後に原告によって旧訴が取り下げられると解する。
 この考え方に立つと,任意的当事者変更の許容性が限定される上,認める意義も少なくなる(第一審でしか許されないこと,併合も必要的でないこと,旧訴の取下げには相手方の同意がいること,時効中断・期間遵守等の効果が新訴に及ばないこと)。
 ただし,弁論が併合されれば,旧訴の裁判資料を新訴の審理に反映させることができる。
 なお,この見解に立っても,法人とそのだ評者のように,旧当事者と新当事者との間に密接な関係があるときには,裁判所は併合を義務づけられる。
[U]特殊行為説
 当事者変更を特殊な訴訟行為として捉える見解。
当事者,特に被告変更の申立ての要件として
(1)新旧の訴訟物の間に密接な関連性が存在すること
(2)旧被告の同意を要すること
(3)控訴審では新被告の同意のあること
(4)上告審ではないこと
の要件が満たされれば,変更申立てに基づいて旧当事者に対する訴訟係属が消滅し,新当事者に対する訴訟係属が発生すると考える。
(批判)
(A)以上のような要件を設けるのであれば,通説と大差がない。
(B)被告を誤ったことが上訴審に至って判明するのは例外的である。
(C)訴訟法に規定がない訴訟行為を認めるのは避けるべきである。
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