法律

□刑事訴訟法雑記帳
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《強盗強姦と訴因》

問 強盗が女性被害者を強姦したところ,女性被害者は傷害を負った。検察官は,過去の判例に従い,強盗強姦の被害者が傷害を負った場合には,強盗強姦罪一罪が成立するとした上で,傷害結果部分については,その公訴事実に掲げないまま,被告人を強盗強姦罪で公判請求した。この場合,裁判所は,量刑の理由として,傷害結果を掲げることが許されるか。



答 強盗強姦の被害者が傷害を負った場合の擬律については,大審院時代の判例(大審院判決昭和8年6月29日刑集12巻1269頁は,強盗強姦罪一罪が成立すると言い,これに従う下級審判例も多い(東京高判昭和45年2月5日高刑集23巻1号103頁,東京高判昭和57年11月4日判例時報1087号149頁)。ただし,現在の実務上強盗強姦罪と強盗致傷罪の観念的競合と考える見解も強く,実際,前記東京高等裁判所判決以後にも,観念的競合説に立つ下級審裁判例が複数出されているところである。
 ところで,強盗強姦一罪立ったとしても,その公訴事実の書き方に若干の疑義があり得る。
 というのは,強盗強姦一罪説に立った場合,傷害結果が生じたとしても,強盗強姦事実があれば,それで構成要件は充足するので,傷害結果を公訴事実へ掲記するのは,余事記載になるのではないか,疑義が生じるからである。
 この点,設問のような起訴がなされた事案において,公判で傷害結果に関する証拠を取り調べた上,量刑の理由にも掲げた第一審判決に対し,控訴がなされた事案について,名古屋高等裁判所平成21年2月17日名古屋高等裁判所刑事裁判速報732号は,「刑法241条前段の強盗強姦罪は,致傷を伴わない強盗強姦にも,致傷を伴う強盗強姦にも適用されるものの,致傷を伴うか否かで事実の内容が異なるし,その有無は社会的にも,被告人の防御の上でも重要なものというべきであるから,審理の過程でその点が主張,立証されていても,訴因変更手続を経ることなく,致傷を伴わない強盗強姦の訴因で,致傷を伴う強盗強姦として致傷の点をも実質的に処罰することは許されないというべきである。」と判示し,第一審判決を破棄した。
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