法律

□刑法雑記帳
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《現行犯人逮捕と自招防衛行為》

第1 法令行為(35条)

 現行犯人の逮捕
・外形的には現行犯人の逮捕であっても,違法な目的のための手段として利用される場合には,違法性は阻却されない。したがって,被逮捕者が現行犯人であっても,逮捕者が,これを検察官または司法警察職員に引き渡す考えがなく,同人を逮捕して脅迫し,場合によっては金員をかっしゅできるかも知れない,という気持ちから逮捕したときは,現行犯人逮捕としての違法性を阻却しない(仙台高判昭26.2.12特報22-6,大コメ(2)217頁)。
・現行犯人を逮捕するにあたって,犯人から抵抗を受けた場合に許されるべき実力の行使について,判例(最判昭50.4.3刑集29-4-132)は,現行犯人から抵抗を受けたときには,逮捕しようとする者は,警察官であると私人であるとを問わず,その際の状況から見て,社会通念上,逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使することが許され,たとえ,その実力の行使が,刑罰法令に触れることがあるにしても,刑法35条によって罰せられないという。
 したがって,立川市議会議員である被告人が,自衛隊立川基地移駐反対の運動にこうぎするため,立川市役所に?かけた約30名の右翼学生が,立て看板を破壊したことからその3〜4分後,現場において,学生等のリーダーと認められた被害者に抗議したところ,かえって,同人から突きかかられたので,これに憤激するとともに,捕まえてやれ,という気持ちになり,とっさに,その顔面を右手拳で1回殴打し,右手で同人の襟首をつかみ,これを振りほどこうとする同人と取り組んで相争い,倒れた同人を押しつけるなどの暴行を加え,全治約3週間を要する顔面挫傷等の傷害を負わせても,これは,現行犯人を逮捕するためにした,必要かつ相当な範囲のものであった,と認められて,刑法35条により罪とならないとされた(東京高判昭51.11.8判時836-124)。
 被告人が,午後11時50分頃,部屋に不法侵入した犯人を現行犯逮捕したが,以前にも窃盗の被害を受けたことがあったために,これを追及し,被害を弁償されるのが得策であると考え,同人をガウンの紐でしばり,さらに,後ろ手に両手錠をかけて追及し,翌日の午前8時頃まで同室に監禁した行為については,正当行為あるいは社会的相当行為として違法性が阻却される余地はない(東京高判昭55.10.7刑裁月報12-10-1101)。

第2 自ら招いた正当防衛状況(大コメ(2)359頁以下)

 わが国における学説は,自ら招いた正当防衛状況の下における正当防衛の成立を否定するのが一般的である。もっとも,自招侵害と言っても,その先行行為(招致行為)の態様は,先行行為者の主観によって,@意図的な挑発(正当防衛の名の下に相手方の法益を侵害する機会をつかむため,ことさらに挑発してその反撃行為を招く場合),A故意的な挑発(自己の先行行為に対して相手方が反撃行為をしてくるかもしれないことを予見している場合),B過失的な挑発(自己の行為に対して相手方が反撃してくるかもしれないことを予見できたのに予見しなかった場合)とがあるが,学説は,専ら@の類型を前提にした議論であるように思われる。
 もっとも,挑発行為自体が「急迫不正の侵害」に当たる場合には,その挑発行為に対する反撃行為は正当防衛になりうるから,その場合には,挑発者の側で正当防衛をなしえないことはもちろんである。
 大コメ(2)361頁以下は,判例の傾向は,正当防衛の成立を認めることには消極的であるとしながらも,正当防衛の成立しない範囲については,「積極的加害意思」の有無の規準で判断すべきであるとする。また,相手の侵害が予期の程度を越えて過大で,本人の加害意思および加害行為との間に均衡を失するような場合は,侵害の急迫生は失われないとする。したがって,@相手方の侵害行為が自己の先行行為との関係で通常予期される態様および程度にとどまるものであって,少なくともその侵害が軽度にとどまるかぎり,相手方の行為を急迫の侵害と見ることはできず,他方,A挑発行為があっても,予想をはるかに超えた侵害がある場合には,侵害の急迫性の要件は失われるものではない(ただし,挑発者は侵害を回避することが可能なときは回避すべきであり,相当性は通常の場合よりも厳しく判断される。)。
 
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