法律

□刑法雑記帳
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有印性 

問 文書偽造等事犯で,偽造文書の有印性を認めるに足りる「署名」には,集団(政府機関及び地方公共団体の機関等の「公務所」,その他の法人)のものを含むか。



答 まず,公務所については,大コンメ(8)142頁(公文書偽造等の注釈)では

「署名」については,判例は,自署であると記名であるとを問わず,いやしくも作成者が誰であるかを表示するものは,すべて含まれると解している(大判大4年10月20日新聞1052号27頁)。したがって,公務員の署名のほかに,公務所の署名もあるとしている。

としていることから,含まれることになる。
 文献上若干判然としないのは,公務所以外の私人(私企業等)である。
 この点,大コンメ(8)177頁は

判例は,【略】自署である必要がないとする。しかも,氏と名とを併記する必要もなく,それを各別に示した場合,しかも,それが片仮名で,氏のみを表記した場合(大判明43年1月31日刑録16輯74頁),氏名のほか商号その他の符号文字を用いた場合(大判明443年3月10日刑録16輯414頁),屋号を記した場合(大判明43年9月30刑録16輯1572),普通取引上に使用される銀行の名義を表示する屋号(大判大4年2月20日刑録21輯155頁),雅号を用いた場合(大判大14年10月10日刑集4巻599頁),いずれも,それによって特定人を表彰しうるものであれば,署名であるとする。

と述べる。
 「銀行の名義」の事例を考えると法人名義も当然によいとも思えるが,法人名義を正面から一般論として認めている訳ではない上,他の事案は自然人を対象としていることから,やや自信がない。 
 ただ,条解428頁は,私印偽造及び不正使用等の罪(167条)ついて,その構成要件たる

「他人」(の印章)

とは

公務所・公務員以外の私人たる他人を指す。自然人であると法人であるとを問わず,法人格を有しない団体でも社会生活上独立の人格者と同様に扱われるものを含む


とした上で

会社の工場の称号の偽造の例(大判大7年5月10日刑録24巻578頁
青年団の署名の例(大判大8年12月17日刑録25巻1383頁)

で他人性を認めたことを挙げることからすると,私人たる団体の署名の偽造も認められるというべきである。
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