法律

□刑法雑記帳
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《2項強盗殺人と「財産上の利益」》



問 債権者殺害事例以外で2項強盗殺人の成否が問題となった「財産上の利益」の例を挙げよ。



答 たとえば,次のような事案が問題となっている。
1 「相続により財産を承継しうる地位」
2 会社経営権等の「経営上の権益」
3 「キャッシングカードを用いて消費者金融会社から利用限度額の範囲内で何回でも繰り返し金銭を借り入れることができる地位」
4 キャッシュカードを窃取していた者がその名義人から暗証番号を知ることにより得られる「預金残高の範囲内で金銭の払戻しを受ける地位」




問 「相続により財産を承継しうる地位」は「財産上の利益」に該当するか。



答 消極(東京高判平元・2・27高刑集42−1−87,判タ691−158)。
 相続により両親に帰属する全財産の承継を得る目的で,共犯者と共謀の上,自己の両親を殺害しようとしたが,未遂に止まった事案について,「刑法236条2項の(中略)対象となる財産上の利益は,財物の場合と同様,反抗を抑圧されていない状態において被害者が任意に処分できるものであることを要すると解すべきところ,現行法上,相続の開始による財産の承継は,生前の意志に基づく遺贈あるいは死因贈与等とも異なり,人の死亡を唯一の原因として発生するもので,その間任意の処分の観念を容れる余地がないから,同条2項にいう財産上の利益には当たらない。それ故,相続人となるべき者が自己のため相続を開始させる意図のもとに被相続人を殺害した場合であっても,強盗殺人罪に問擬するのではなく,単純な殺人罪をもって論ずべきであ(る)」旨判示した。
 


問 会社経営権等の「経営上の権益」は「財産上の利益」に該当するか。



答 消極(神戸地判平17・4・26判時1904−152)。
 「単なる殺人罪ではなく奪取罪の1つである2項強盗殺人罪が成立するためには,1項強盗罪における財物の強取と同視できる程度に,その殺害行為自体によって,被害者から『財産上の利益』を強取したといえる関係にあることが必要と解される。この点,2項強盗殺人の典型例である,債務を免れるために債権者を殺害した場合のように,行為者と相手方間に予め一定の法律関係がある場合には,相手方を殺害することによって,まさにその債権者たる相手方から債務者たる行為者に利益が移転したと認めることは,比較的容易といえる。これに対し,本件における『経営上の権益』(略)は,(被害者)が死亡した場合には,被告人に引き継がれる可能性が高かったとはいえ,領差T野間に当然にそのようになる一定の法律関係等が存在していたわけでもない。(略)本件においては,被害者を殺害すること自体によって,それが行為者に移転するという関係を想定することは困難であることからすれば,本件の事実関係のもとでは,検察官の主張する『経営上の権益』は刑法236条2項の『財産上の利益』には当たらないと解するのが相当である。」と判示した。



問 「キャッシングカードを用いて消費者金融会社から利用限度額の範囲内で何回でも繰り返し金銭を借り入れることができる地位」は「財産上の利益」に該当するか。



答 積極(東京高判平18.11.21公刊物未搭載)。
 知人から詐取した健康保険証を使用して,知人になりすまし,消費者金融会社から借り入れようのプラスチックカード1枚を入手した上,極度借入基本契約を申し込み,上記プラスチックカードを利用限度額の範囲で繰り返し借入れができるキャッシングカードとして利用可能にさせたという2項詐欺の正否が問題となった事案について,原審が,上記利益について「現実的な経済的利益になるとは認めがたい」として2項詐欺罪の成立を日対したのに対し,「同カードを使用すれば,暗証番号による機械的な本人確認手続を経るだけで,現金自動借入返済機等により,利用限度額の範囲で現金の借入れが可能になるのであるから,事実上の経済的利益を得たものと認めることができる」とした上で,「刑法246条2項による『財産上不法の利益を得』たものと認められる」とした。



問 キャッシュカードを窃取していた者がその名義人から暗証番号を知ることにより得られる「預金残高の範囲内で金銭の払戻しを受ける地位」は,「財産上の利益」に該当するか。



答 積極(神戸地判平19.8.28研修724−111)。
 キャッシュカードを窃取していた者がその名義人から暗証番号を知ることにより得られる「預金残高の範囲内で金銭の払戻しを受ける地位」を2項強盗の財産上の利益と認めた。
 なお,一般論として「(刑法236条2項)が,財物奪取罪としての1項強盗に引き続いて規定され,『財物』と同等の財産的価値を有する財産的利益についても財産罪としての保護を与えるために定められたものであるという趣旨に照らし,同条2項の『財産上の利益』とは,財物と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益をいうと解すべきである。」と判示した。
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