法律

□刑法雑記帳
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「支払用電磁的記録不正作出等」



《条文》
問 刑法163条の2の規定を説明せよ。



答 刑法第163条の2は,表題を(支払用カード電磁的記録不正作出等)とし

1項 人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,
その事務処理の用に供する
電磁的記録であって,
クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを
構成するものを
不正に
作った者
は,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も,同様とする。
2項 不正に作られた前項の電磁的記録を,
   同項の目的で,
   人の
   財産上の事務の処理の
   用に供した者
   も,同項と同様とする。
3項 不正に作られた第1項の電磁的記録をその構成部分とするカードを,
   同項の目的で,
   譲り渡し,
   貸し渡し,
   又は
   輸入した
   者も,前項と同様とする。

と規定する。



《他の罪との関係》
問 本条と有価証券偽変造罪,文書偽変造罪の関係について説明せよ。



答 1 文書偽変造罪との関係
 支払用カードの外観である可視的部分については,私(公)文書偽造の罪の客体になり得る。
 したがって,これを権限無く改変するなどすれば,本罪とは別に,文書としての偽変造罪が成立する(条解418頁)。
2 有価証券偽造罪との関係
(1)改正前のテレホンカード裏面のみの改ざんに関する最高裁判所判例
 通話可能度数50度のテレホンカードの裏面を不正に書き換え通話可能度数1998度のテレホンカードに改ざんした事案について,発行時の通話可能度数は及び残通話可能度数を示す度数情報並びに発行者により真正に発行されたものであることを示す発行情報は,電磁的方法により記録されており,券面上に記載されている発行時の通話可能度数については,カード式公衆電話に内蔵されたカードリーダーで読み取ることができるシステムとなっており,「磁気情報部分並びに券面上の記載及び外観を一体としてみれば,電話の役務の提供を受ける権利がその証券上に表示されていると認められ,かつ,これをカード式公衆電話機に挿入することにより使用するものであるから,テレホンカードは,有価証券に当たる」とし(一体説),その裏面のみの改ざんは,変造にあたるとする(最高裁決定平成3年4月5日刑集43巻4号171頁)。
(2)本条が追加された(平成13年法第97号)の影響
 テレホンカードは,プリペイドカードの一種である支払用カードであるから,本条が新設されたことにより,その裏面,すなわち,電磁的記録部分のみを改ざんする行為は,本条1項の罪が成立し,有価証券偽造罪は成立しないこととなった(条解418頁)。



問 電磁的記録部分を欠くが正規のテレホンカードの外観を有するもの(空カード)を作成する行為は,有価証券偽造に当たるか。



答 空カードであっても,テレホンカードの電磁的記録部分は外観上確認できないので,真正なものとして流通する危険があるから,一般人をして真正なテレホンカードと誤認させるに足りる外観を有する空カードを作成する行為には,有価証券偽造罪が成立する(条解405頁)。



《「人の財産上の事務処理を誤らせる目的」》
問 「人の財産上の事務処理を誤らせる目的」とは,何か。



答 「人の事務処理を誤らせる目的」とは,「財産上,身分上その他の人の生活関係に影響を及ぼし得ると認められる事柄の処理を誤らせる目的」をいう(条解400頁)。
 そして,本条が,161条の2と異なり,「財産上の」という限定を付しているのは,「人の事務処理の目的」のうち「非財産的なもののみを誤らせる目的」である場合を除く趣旨である。



問 本条の「事務処理を誤らせる目的」については,行為者自身が,当該電磁的記録を他人の事務処理に供することを予定している必要があるか。



答 その必要はない(条解416頁)



《「その事務の用に供する電磁的記録」》
問 「その事務処理の用に供する」とは,どのような意味か。



答 「財産上の事務処理のため,これに使用される電子機器において用い得るものであること」をいう(条解416頁)。



問 「電磁的記録」とは,何か。



答 「電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」(7条の2)。



《「クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカード」》
問 「クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカード」とは,何か。



答 「商品の購入,役務の提供等の取引の対価を現金で支払うことに代えて,所定の支払システムにより支払うために用いるカード」をいう(条解416頁)。
 くれじっとカードは例示であり,プリペイドカード,カード型の電子マネー等も該当する。 



問 いわゆるポイントカード,マイレージカードの類は,該当するか。



答 それ自体としては,顧客の取引に伴って生じる割引等の特典を蓄積するカードであり,蓄積されたポイントの範囲内で顧客が割引等を受けられるものであって,対価の支払いに用いられるものではないことから,代金又は料金の支払用カードあるいは預貯金の引出用カードを兼ねるものでない限り,該当しない(条解416頁)。



《「構成するもの」》
問 「構成するもの」とは,どのような意味か。



答 「カードの構成要素となっている電磁的記録」,すなわち,「カード板と一体になった電磁的記録」のこと(条解416頁)。
 カード板と一体になっており,正規のものと同様に機械処理が可能になっていればよいので,外観は問わない。



《「不正に作る」》
問 「不正に作る」とは,どのような意味か。



答 「権限無く又は権限を濫用してカードを構成する電磁的記録をその記録媒体状に存在するに至らせること」をいう。
 記録をはじめから作り出す場合のほか,既存の記録を部分的に改変,抹消する場合を含む。



《「預貯金の支払用カード」》
問 「預貯金の支払用カード」とは,何か。



答 「郵便局,銀行等の金融機関が発行する預金又は貯金に係るキャッシュカードのこと」(条解417頁)。



《「用に供する」》
問 「用に供する」とはどのような意味か。



答 「不正に作出されたカードを構成する電磁的記録を他人の財産上の事務処理のため,これに使用される電子計算機において用いうる状態に置くこと」をいう。



《罪数》
問 ある者が本条各項の犯罪をそれぞれ犯した場合の罪数関係は。



答 牽連犯となる(条解418頁)。



問 供用罪(2項)と,詐欺罪(246条),電子計算機使用詐欺罪(246条の2),窃盗罪(235条)の罪数関係は。



答 牽連犯となるが,事案によっては観念的競合ともなりうる(条解418頁)
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