法律

□刑法雑記帳
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放火罪と失火罪(1)

第0 基本的な見方

火力によって,建造物その他の物件を焼損する犯罪
火を付けて家などを燃やす犯罪というイメージ
ただ,「焼損」という概念がやっかい(後述)。

第1 罪質

公共危険罪(社会法益に対する罪)
・抽象的公共危険罪(=これが第一義)
・具体的公共危険罪(刑109U,110,116U,117)
・財産犯的性格(cf:刑109U,110U)

第2 放火罪

1 一般論

(1)放火の意義:未遂罪か予備罪かの境目
 客体の燃焼を惹起させる行為
(2)焼損の意義:既遂罪か未遂罪かの境目
独立燃焼説が判例:火が媒介物を離れて客体上で独立して燃焼を継続できる状態になること
ただし,不燃性・難燃性建造物の放火との関係で問題。
※参照すべき判例
東京地判昭和59.6.22判例時報1131号156頁
最決平成元.7.7判例時報1326号157頁
(3)危険の発生
刑108,109T=抽象的危険犯→不要(大判昭10.6.6刑集14-9-631)
 それ以外=具体的危険犯→必要
 ここで言う公共の危険とは,一般人をして他の建造物等に延焼するであろうと思わせる程度の状態の発生することをいう。
(4)公共の危険の認識
→不要(大判昭6.7.2刑集10-7-303)。

2 現住建造物等放火罪(108)

放火して,現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物,汽車,電車,艦船又は鉱坑を焼損した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

(1)現に住居に使用する(現住性)
→犯人以外の者の起臥寝食する場所として日常利用されていることをいう。
 昼夜人が生活していなくても良い。
 建造物の一部が起臥寝食に用いられていれば,全体が現住建造物となる。
(2)現に人がいる(現在性)
→犯人以外の者が放火の際に,建造物等の内部に所在することをいう。
(3)建造物
→屋根を有し壁又は柱によって支えられたもので,土地に定着し人の出入りが可能であるものをいう。
 建物の一部に見えても毀損せずに取り外せるものは,建造物にあたらない。
※複数の建造物が渡り廊下でつながれている場合
→物理的一体性(一部に放火されることにより全体に危険が及ぶこと)又は機能的一体性(全体が一体として日夜人の起居に利用されていたこと)があれば,現受験贓物放火が成立するといえる(平成1.7.14刑集43-7-641:いわゆる平安神宮事件)。
※難燃性建造物の内部の現住性,現在性いずれも欠く一部屋に放火された場合に,内部の他の部屋が現住性又は現在性を満たす場合の処理
→判例は,現住部分への延焼可能性の程度を考慮して判断しているものと解されている。
※集合住宅のエレベーターの放火の処理
→現住建造物等放火罪の成立が認められる(最決平1.7.7判時1326-158)。
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